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エスカレーターの狭間で…… 第1話  それは、偶然の透けパン

























【第1話】



それは、いつもと変わらない平日の昼下がりのこと。

貴重な昼休みを急な接客に追われた俺は、遅めの昼食を地下街で済ませ、職場へ戻ろうとしていた。
道幅4メートルほどの窓のない地下商店街を、地上へと続くエスカレーターに向かって歩いていく。

「早いもんだな。もうお節料理の予約かぁ」

小綺麗な料理屋のガラス窓には、朱塗りの重箱と色鮮やかな正月用料理のチラシ広告。
それを見て俺は、皮肉そうに口の端を歪めた。
続けて周囲を並行して歩く、白いワイシャツ姿の同僚サラリーマン諸君たちを眺めてみる。

商売というのは先手必勝が世の常だが、場を読むのも必要なのでは……?
俺なら買わん。

ただ、口があればチラシも言い返すかもしれない。
『その言葉、家族を持ってからにしろ』って……はい。仰る通りであります。



やがてエスカレーターが近づくにつれ、ムッとした空気が流れ込んでくる。
俺は首を締め付けるネクタイを緩めると、色褪せた赤い手すりに腕を乗せた。

ゆっくりと流れる視線。
そのはるか上、出口付近から射し込む真白い日差しに思わず目を細める。
そしてその光から逃れるように、並んで設置された階段へと視線を向けた。

ラッシュ時ではない。そのためか、幅2メートルほどの階段を利用する物好きは皆無に等しかった。
そんな中、淡い水色の作業着に身を包んだひとりの清掃員が目に留った。
制服と同色の前つば付きの帽子を深めにかぶり、手には自分の背丈くらいありそうなモップを握り締め、黙々とそれをローラーでも押すように動かしている。
帽子からはみ出た前髪が、流れる汗のせいで額に貼り付いている。
紅潮した頬。疲れを隠せない瞳。
それ以上に目を引くのは、細めの上半身に比べて発達した腰骨。要はムラムラしそうな尻肉ということだ。
女……だったのか?
顔を斜め下に向けた女性は、俺の期待をいい意味で裏切るほど若かった。
いや、まだあどけなさを残す少女のようにも見えた。
それに可愛い。こんな清掃員なんか辞めても、他にも色々行先があるくらいの美人だった。
だが、そのとき俺はあることに気が付いた。

おいおい、パンティが透けてるぜ。

顔に見惚れて一瞬の間しか残されていなかったが、間違いない。
ズボンの生地が薄いのか、肉付きのいい尻に、逆三角形の小さな布地が貼り付いている。
いや、肩甲骨の下あたりを横に走るブラの紐まで、くっきりと浮かび上がっている。

俺は過ぎ去る階段の上から、彼女の姿を見下ろしていた。

どうする?
もう一度拝みに行くか?
なんなら心にもないことだが、彼女に指摘してあげれば……?

俺の中で色んな声が飛び交い、取り敢えずという感覚で下りのエスカレーターにUターンする。
今度はじっくりと拝ませてもらうぜ。
さっきより2段ほど下った階段を、腰を曲げて掃除をする彼女を凝視する。
こっちに背中を向けるのをじっと待ちながら、首が斜め前から真横、斜め後ろと半円を描いて……見えた。彼女の透けパンが。

それにしても、露骨すぎやしないか。
透けてるってレベルじゃないよな。じっくり鑑賞しなくても気が付くって感じだしな。

「声だけでも掛けてみるか」

再び地下に降り立った俺は、2本のエスカレーターに挟まれた中州のような階段を上り始めた。
どうやら俺も、物好きな人間に仲間入りしたらしい。
いや、これはスケベ人間入門ってとこだな。

黙々と作業をする彼女を見つめながら、黙々と階段を上る俺。
だが手早くモップを操る彼女のお陰か、俺は10段ほど上った踊り場で、見て下さいとばかりに突き出された女の尻を目にすることができた。

「おとなしそうな顔をして……へえ~黒かぁ」

一言呟ける間を確信して、彼女の背中に話しかけてみる。
そして、モップが踊り場を掃除し始めるのを見計らって、今度は聞こえるように声を掛けた。

「あのぉ、すいません。ちょっと」

「あっ、はい。なんでしょう」

振り向いた彼女の声は、顔に違わず柔らかく幼げだった。
左胸にぶら下がっている大きめのバッジに目を走らせる。

『(有)コスモス・クリーニングス 大橋怜菜』

「大橋怜菜(おおはし れな)ちゃんかぁ、可愛いねぇ。で、何才なの?」

控えめを意識した口調と、想定していたのと違う質問に、彼女は怯えた表情をする。
たぶん、駅の改札口はどこか? とか、そういうのを思っていたんだろうなぁ。
不謹慎な利用者ですいません。

でも、もう少し遊ばせてもらうよ。怜菜ちゃん。
職場に戻ったところで、とうが立った女事務員のしけた顔しか待っていないもんでね。