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メモ用紙が繋ぐ、微かな希望






















【第14話】


        
        「遥香様、お薬をお持ちしました」

        「ありがとう、弥生さん」

        わたしは弥生さんが持ってきたトレイを受け取ると、ベッド脇にあるサ
        イドテーブルに置いた。
        木製の丸い器の中には、ガラス製の水差しと痛み止めのお薬、それに小
        さく折りたたまれたメモ用紙が。

        『弥生さん、このメモは?』
        思わず口を開こうとして、わたしはその唇に手を当てた。
        彼女が首を真横に振って、人差し指を伸ばした右手でベッドの下を示し
        たから。

        誰かに監視されているってこと?
        もしかして、盗聴器?
        スパイ映画なんかでは、そういったシーンを見かけるけど……
        そうだよね、この屋敷の住人ならやりかねないもの。

        「では、私はこれで。後でトレイは回収に伺いますので、そのままにし
        ておいて下さい」

        徹底して無感情、無表情。
        エッチなメイド服を着た弥生さんは、淡々と要件だけを伝えると一礼し
        て部屋を出ていった。
        わたしは閉じられたドアに向けて頭を下げる。

        几帳面な性格を物語っている丁寧な折り目の付いたメモ紙。
        それに気を取られながらも、わたしはふぅっと息を吐いた。
        緊張して凝り固まった肩から力を抜いた。

        そして、目尻を垂れさせたお姉ちゃんの顔で、ベッドに横たわる孝太に
        目を落としていた。
        お義父さんの放った鞭打ちに必死で耐え続けた年下なボディーガードの
        寝顔を、ぼやけていく眼差しで見つめた。

        『びゅいぃんんッッ! ピシィィッッ!! 「ンンッ! ムグゥゥッ
        ッ!」「き、92回ッ!」』

        まぶたの裏側では、今でも鞭が唸り続けている。
        孝太が血を吐くように呻いて、わたしが血が滲んだ喉でカウントをして
        いる。

        (孝ちゃん、痛かったでしょう。でも、格好良くて男らしかったよ。お
        姉ちゃんのために頑張ってくれたんだよね。ありがとうね)

        本当は『ごめんね、孝ちゃん』って、心の中で謝りたかった。
        ううん、抱き締めてあげて耳元で、『ごめんね、ごめんね』って何度でも。
        何百回でも。
        だけど、たぶん孝太はそんな言葉を望んでなんかいない。
        姉弟として当然のことをしたって、胸を張って鞭打たれたんだから、そ
        の想いは大切にしないといけないの。

        「う、うぅっ……グス……グスン……」

        そう思った途端、わたしは泣きだしていた。
        鼻をすすって、小さな子供のように両目を手の甲で擦って。
        その指の隙間から、熱いモノ染みださせて。

        涙を落としたら謝っているのと同じになるのに、どうしたらいいの。
        泣いたって、孝太の痛みが和らぐわけじゃないのに。
        そんな泣き声を耳を澄ました誰かが、ほくそ笑んで聞いているのに。

        でも後から後から溢れてきて流れ落ちて。
        目尻を滑り落ちたそれが、孝太のおでこを濡らした。
        青ざめたままのほっぺたのお肉も濡らした。

        「んんっ……はあ、はぁ……母さん……お母さん……」

        「こ、孝ちゃん……?」

        うなされながら、孝太が右手を伸ばしてきた。
        わたしは、男の子にしては華奢なその腕を手に取ると、迷わずに胸に抱
        いた。
        くり抜かれたブラウスから飛び出した遥香のおっぱいに触れさせてあげ
        て。

        記憶の彼方のお母さんを蘇らせようとして。
        ちょっと小さくて頼りない乳房だけど、夢の中で戯れている指先に好き
        にさせて、お母さんの面影に少しでも近付けようとして。

        (いいのよ、孝ちゃん。お姉ちゃんのおっぱいを弄っても。もっと摘ま
        んでも、揉んでくれたって全然構わないから。孝ちゃんがしたいように
        ……それで辛い痛みが癒されるんだったら、遥香は……)



        痛み止めの薬が効いたのか、孝太の寝息が穏やかなものに変わる。
        わたしは物音を立てないように意識しながら、添えられたメモ用紙を開
        いた。
        たぶん、弥生さんの文字だと思う。
        女性らしさが滲み出た文面を一字一句脳裡に刻みながら目を通していく。

        『遥香様へ。今夜行われる予定だった儀式は中止になったようです。ど
        うか安心して孝太様に付き添ってあげてください。但し、あのモノ達は
        諦めていません。数日中に、新たな儀式を計画し参加を命じると思いま
        す。
        私達は遥香様や孝太様の身の回りのお世話しか出来ません。お辛いのは
        分かりますが今は耐えてください。そうすれば、いつかきっと……宗像
        弥生、皐月』

        わたしは、メモ用紙に並んだ文字を追いながら目頭を熱くした。
        最後に彼女達の名前に目を落として、胸の中まで熱くしていた。

        (ありがとう。弥生さん、それに皐月さん)

        残酷な悪魔が棲みついている屋敷の中で、わたしや孝太のことを本気で
        想ってくれている。
        そんな仲間が身近にいて見守ってくれている。
        そう思うだけで、希望の2文字が頭に浮かんだ。
        胸の中に溜まり続けた嫌なモノが、目にしたメモ用紙に浄化されて、顔
        の筋肉が勝手に緩んでいく。
        また涙が溢れてきて、また泣きだして。でも、混ぜこぜにして笑って。

        わたしは、血の気が戻ってきた孝太に顔を寄せた。
        メモ用紙を力のない指に握らせながら、おでことおでこをひっつけてい
        た。

        孝ちゃんも目が覚めればいいのに。
        そうしたら、今すぐに耳元に口を当てて囁いてあげるのに。
        場違いなくらいに弾んだ声で。

        『お姉ちゃんは、孝ちゃんから勇気をもらったの。それでね、弥生さん
        と皐月さんからは希望をプレゼントされたの。今は霞んでいて、とって
        も儚げだけど。恥ずかしくてエッチなことだって我慢して耐えていれば、
        いつかきっとだよ。幸せが舞い降りてくるかも。お姉ちゃんの元にも、
        孝ちゃんの元にも。弥生さんにだって皐月さんにだって』

        メモに書かれていた儀式。それがわたしにとっての、エッチデビューの
        日。処女喪失の日。
        今だってとっても怖ろしい。想像しただけで全身が震えている。
        でも、もう逃げないから。
        遥香は舌舐めずりして待っている悪魔達に堂々と立ち向かうから。
        堂々と、エッチしてセックスするから。








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