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公開恥辱 電車篇 その1














                 








(二十)


八月 十二日 火曜日 午前九時  早野 有里



通勤時間のピークを過ぎた車内は、思ったよりも空いていた。
確かに、座席は埋まっているけど、ぱっと見た限り、立ち姿の乗客は数人しかいない。

わたしは、壁に備え付けてある銀色の取っ手を片手で掴むと、見るとは無しに、流れていく景色を追いかけていた。

視界に入った途端、あっという間に過去のものに変身する街並……
家も車も、それは人でさえ……
一瞬にして、セピア色の過去に閉じ込められていく。
……まるで、今の自分みたい。
抵抗することなく、流されるだけの生き方……
空しくて……切ないよね……
…… ……

こらぁっ! そこのきみ、笑わないッ……!
せっかく大人の女を演じていたのに……

仕方ない、このシーンはカットね。



数分後、連結部分の扉を開閉する音が、かすかに聞こえた。
足音がしだいに近づき、わたしの背後で、なぜかピタッと止まる。
そして、忘れ去りたい耳障りな声を、耳がひろった……

「ひどいですよぉ。わざと、私を置いていきましたねぇ」

……そんな……うそでしょ!?

背中を悪寒がはしる。
脱力感と、今の状況を否定しようとする自分がいて、振り向けない。

「一体どうやって……この電車に……?」

問い質すというより、わたしは自分に話し掛けていた。

やっぱり世の中には、報われない努力もあるんだ。
実はこれは夢で、立ったまま眠っているってことは……ないよねぇ。

「私を出し抜いておきながら、謝罪もなしに、疑問に答えろですかぁ?
あなた。私を舐めていませんかぁ」

「いえ、そんなつもりは……」

「それなら、愛しいその顔を見せて下さい。
……話は、それからです」

ガタンッ、ガタン……! 
線路の継ぎ目を車両が通過したのか、足元がぐらついた。
……夢じゃないようね。

わたしは、上半身だけをひねった。

「おおっ、ほつれて貼り付いた黒髪……桜色の肌……
朝からお色気たっぷりですねぇ。
ついさっきまで、アレでもしていたようですよ……ククククッ……」

「あなたって……本当に下品な人ね……ッ!
それより、教えてくれない……?
どうして、ここにいるのか?」

平然とした態度で吊革にぶら下がっている副島に、苛立つ自分がいた。
それでも聞いておこうと思った。

「実はですね……
あなたが駅に着く前に、切符を買っていたんですよ。
……ただ、それだけです」

「では、財布からお金を出す仕草は……
……わたしを、騙したのねッ!」

こんなのトリックでも何でもない。
からかわれていた……? 副島に……

「でも、どうして……? 確かにわたしの後ろで扉が……」

そうよ。わたしが最後だったはず……

「ええ。今回ばかりは焦りましたよ。
まさか、本気で逃げ出すとは……
昨日、ヴァージンを失った身体にはとても見えませんねぇ。
本当は、処女ではなかったとか……
……いや、失礼」

副島は、わたしのひと睨みに話を修正した。

「私も体力には自信が有る方ですが、正直、間に合わないかと思いましたからねぇ。
でも、あなたの前にこうして立つことが出来ました。
間一髪で飛び乗った後、扉が閉まったんですよ」

「そんなわけ……?!」

「そんなわけが、有るんです。
あなた、扉が閉まる音を、ちゃんと聞きましたかぁ?」

「えっ……?」

「エアー音が、二度したはずです。プシューッ、プシューッとね……
私が隣の車両に掛け込もうとした時に、乗務員さんに気付いてもらえて……
いやー、本当にラッキーでした。
やはり、駆け込み乗車は危険ですねぇ。
……反省しています」

わたし、夢中で走って来たから……音の回数までは気が回らなかった。
……と言うより、そんなの当たり前じゃない。
それが分かれば、名探偵○○○よ!

「……と、言うことで、御理解いただけましたか?」

「……はい」

「それは良かった。
……でも、私はちぃっとも良くありません。
朝から、好まないのに激しい運動はさせられるし、駅員さんには睨まれるし……
見て下さい。ワイシャツが汗で透けていますよッ!」

副島は、ネクタイを緩めながら、シャツの袖部分をつまんでは離してみせた。

「そんな事……言われたって……」

わたしは、チラ見した後、目をそらした。

「いいえ。この責任は、しっかり取ってもらいますよぉ。
私の気が済むように、あなたには罰を受けてもらいましょうかぁ」

「……どうして、そうなるんですか?!」

「私は管理者です。
……なのに、あなたは逆らった。
これは、ペナルティーを与える十分な理由になると思いますよぉ。
それに、これは行為です。
お父さんのことを考えれば、悪くない話だと思いますが……」

副島の表情が、昨日の危ない顔に変化して、わたしは思わず、バッグを胸にあてがった。

「……でも、カメラも無しに……それもたった一人で……どうやって撮影するのよ?」

ジロリと副島の身体を、下から上まで観察する。
……やっぱり、スーツの上着以外、何も手にしていない。

「どうしてあなたは、そう目の前にあるものしか見ようとしないのですか。
もう少し、観察力を身に付けた方が身のためですよぉ」

副島は、通路斜め向こうで吊革にぶら下がる、大柄な男に目配せした。

「あなたは……?!」

胸の中を昨晩と同じように、酸っぱい悲しみが広がっていく。

「紹介しましょう。
名前は、横沢良一。
私と同じで、お父さんの命の恩人……
そう、時田謙一の元で仕事をしています。
……と、いうより、私の忠実な部下と言う方が、正しいかもしれません。
あなたも、面識はあるでしょう」

わたしは改めて、横沢と紹介された男に顔を向けた。
身長は、副島よりやや低いけど、身体の横幅では負けていない。
……別に、太っているって訳ではないよ。
無駄な脂肪がない身体を、鋼のような筋肉が分厚く覆っている感じかな。
太く短い首と共に、そう、柔道か何かの格闘技をこなしていそうな体型……

でも、ショックなのは手にしてるビデオカメラ……
わたし、分かっちゃった。
ここが、スタジオだってことに……

「それでは、時間がありません。
ただいまより、有里様のお仕置きを始めます」

お仕置きって言い方は、嫌だな。
しつけで、お尻を叩かれるみたいで……
……でも、何をする気だろう?

わたしは、周囲に目を走らせてみる。
幸い、他の人は誰も気が付いていないみたい。
大きな声さえ出さなければ、何とかなるかな?

「わかりました。
……それで、どうすればいいの?」

「話の分かるお嬢さんですねぇ。
まずは、その足をひらいてもらいましょうか。
……そうですね、肩幅位にね」

「……こう……ですか」

わたしは、揺れる車内でバランスを崩すふりをして、右足を言われた通りにひらいた。
自分で言うのもなんだけど、わたしって、負けず嫌いだね。

「それでは、お仕置きのルールを説明します。
今から私は、あなたの下半身にエッチな悪戯をします。
……どこを触るか……それは教えられません。
ただ、場所が場所ですから、脱がしたりは致しません。
あくまでも、ジーンズの上からということになります。
……あと、あなたがすべきことは、私に逆らわないこと。
ひたすら、手すりにでも掴まって耐えていて下さい。
時間は、あなたが降りる駅に電車が着くまで……
……後、15分位でしょうか。
……ああ、そうでした。
エッチな声を出しても構いませんが、程程にお願いしますよぉ。
何といっても、公共の場ですからねぇ……ククククッ……」

わたしは、振り返らずに大きくうなづいた。
まったく、ふざけきったルール……
でも、従うしかないよね。

自分に出来るのは、ただ耐えることだけ……
金属の支柱を両手で握り締めて、男を誘うように足をひらいて、好きなように嬲られる。
その間、じっとしていればいい。

……でも、辛いよね。
いつも乗る電車で、痴漢の真似ごとさせられるんだから……

どうか、誰も気付きませんように……



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