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ようこそ♪ 陰謀渦巻く開拓地へ

















(12)



        河添拓也の視点


        目の前に拡がるのは荒涼とした大地。
        乾燥しきった岩と土。
        草木も生えず、動物や虫の気配も感じず、鳥のさえずりさえ聞こえない。

        「ふふ、さしずめここは、現代における西部時代の開拓地そのものだな」

        俺は、自嘲気味にそう呟くと後ろを振り返った。

        「課長の作業着姿、だいぶ様になってきましたよ」

        「……そうか、様になってきたか」

        噛み合わない会話を聞き流しながら、俺はカウボーイハットのつもりで、
        ヘルメットのアゴ紐を締め直した。
        その横を、轟音を響かせながら何台ものダンプカーが走り去っていく。
        巨大なタイヤから舞い上がる赤茶けた砂が、新品に近いヘルメットにも、
        未だ馴染まない土木用作業着にも、粉雪のように降り積もっていく。

        「開拓地にも、速度制限が必要だな」

        「ついでに、荒野にもアスファルト舗装が必要な時代かと……」

        「はははは、お前の言うとおりだ」

        俺は、制服に付着した砂を払い落しながら、改めて同行する男に目をや
        った。

        黒川信人(くろかわ のぶと)、株式会社黒川開発の代表取締役……要す
        るに社長だ。
        土地の造成に始まり、基礎工事、ライフラインの設置事業などを幅広く
        手掛ける建設業を営んでいる。
        まあ、そうは言っても、時田金融グループ建設部2課に属する協力会社
        のひとつではあるが……

        小柄ながらも、この業界に相応しいがっしりとした体型。
        まだまだ夏が始まったばかりだというのに、浅黒く陽に焼けた面構え。
        年は聞いていないが、おそらく俺より一回り年上。30代前半というと
        ころか。
        顔に似合わず几帳面な男で、俺がこの現場に赴任してからというもの、
        直属の部下以上に手足となって働いてくれる頼もしい仲間だ。

        そして、この男。経歴も少々変わっている。
        わずか3年で、ゼロから今の会社を立ち上げたことも驚嘆すべきだが、
        それ以前は興信所勤めだと聞く。
        そう、探偵をしていたらしい。
        らしいと言うのは、当時の事を、あまり本人が話したがらないこともあ
        るが、俺もとやかく他人の過去を掘り返すのは趣味ではない。

        「篠塚の娘の件……順調か?」

        「はい、あらかたの調査は終わらせました。
        近いうちに、詳しい資料を提示できると思います。ただ……」

        「ただ? なんだ、言ってみろ」

        「……はい。天下の時田金融副社長の娘さんを探るというのは、正直、
        恐れ多いかと……」

        「ふふ、そういうことか……」

        俺は鼻で笑いながら、黒川の態度に、らしくないものを感じた。
        『篠塚』の名前を耳にした途端、奴の目がわずかにだが泳いだからだ。

        この男にしては珍しいことだ。
        まさかとは思うが、篠塚の娘にほだされた……?
        なくもないが、この男に限ってその可能性は低いだろうな。

        だからこそ俺は、この男にはすべてを話してきた。
        ひそかに抱く壮大な野望から、俺の下半身事情に関わる女、岡本典子の
        ことまで。
        それが吉と出るか、凶と出るか。
        ふふっ、愉しみなことだ。



        俺と黒川は、荒涼とした開拓地が全て見渡せる小高い丘の上に立ってい
        た。

        地平線とは大げさだが、視野一面に拡がる茶色の大地に、定規で線を引
        いたような道らしきものが見える。
        碁盤の目のような区割りが薄らと浮き上がり、その中を先程のダンプカ
        ーだろうか?
        隊列を組んだゴマ粒が視野の外へと消え去ろうとしている。

        時田金融が押し進める、大規模な工業団地開発計画。
        並びに、ファミリー層をターゲットにした巨大ニュータウンの開発計画
        も。

        まだ、それらしき構造物はほとんど皆無だが、いずれこの荒野に整然と
        したコンクリートの塊が出現することになるだろう。
        そして、その工業団地開発事業を任されているのが、この俺というわけ
        だ。

        「黒川、あの一帯だな?」

        規則正しいマス目に虫喰いの穴が開いたような一角を、俺は指差してい
        た。

        「はい、なかなか反対派の抵抗が激しく難航しています」

        遠目では確認しずらいが、まるで取り残されたように数十軒の平屋建て
        の家屋が、肩を寄せ合うようにして建ち並んでいる場所がある。
        その周囲を取り囲むように立てられているのは、おびただしい数の粗末
        な看板の群れ。
        おそらくは、強引な土地接収に反対する抗議文が、下劣な言葉で書き連
        ねているに違いない。

        無能な前任者の置き土産ではあるが、このままいつまでも放置するわけ
        にもいかないだろう。
        このプロジェクトを左右する問題になりかねないからな。

        では、どうすべきか?

        俺が赴任する前から、手土産なしの話し合い交渉は何度も行われている
        が、当然のように紛糾し、未だ条件提示さえ出来ない有様である。
        この場合、手っ取り早い方法としては、やはり金の力に頼るのが一番だ
        と思う。
        だが厄介者として左遷された俺のために、あの本社連中が資金を提供す
        るなどあり得ない話だ。

        話し合いもままならない。切り札の金も使えない。
        だとしたら……?

        ……ここは、俺の手持ちの駒でなんとかするしかあるまい。
        そのための特訓は、毎夜欠かさず行っているからな。

        「黒川、頼みがある。篠塚の娘で手いっぱいなのは分かるが、急いで、
        反対派の中で主導権を握っていそうな連中を探ってくれないか?
        出来れば、世帯主である旦那を中心にな……」

        ふふ、典子。いよいよ、お前に働いてもらう時が来たようだ。
        その身体を使ってな……






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