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哀しみのファーストキス























(十一)


八月 十一日 月曜日 午後九時三十分  早野 有里
  


        「そろそろ、ショータイム第二幕を始めましょうかぁ」

        副島の芝居じみたハスキー声が部屋中に響き渡り、わたしはソファーの
        上で仰向けのまま、まぶたをひらいた。

        どうしてわたし、ここで寝ているんだろう。
        ……確か、副島の前で服を脱いで裸になって肌を見られた気がするけど、
        その後のこと……よく覚えていない。

        「有里様、あなたは偉いですねぇ。
        まーさか、ご自分でおま○こをさらけ出してくれるとは……私、副島、
        感服致しました。そのお礼といってはなんですが、今度は私のストリッ
        プショーをお目に掛けたいと思いますので、どうぞご覧のほどを……」

        副島の嫌みたーっぷりの言葉も、それに続く衝撃発言も何か上の空……
        この人なに言ってるの? って感じ……

        ……ストリップ?

        ストリップならわたしがしてあげたでしょ。1枚1枚、色っぽく丁寧に……
        だから今でも裸なの……

        他に誰が……何か変ね。
        あの人……何してるの……?

        ……?
        ……?……?
        ……?……?!……!
        ……て、エーッッッッッッ!!

        今、ズボンを脱がなかった? 続けてワイシャツもぉッ……!?
        ちょっと待ってよぉッ……下着まで……!?

        副島は、わたしの目の前で見せつけるように服を脱いでいく。

        ……いや、これ以上見てはいけない。

        わたしは手のひらで顔を押えて「ヒーッ、な、なにを……してるのッ!」
        って、定番通り叫んだ。

        どうしてかって……?

        わたしが女の子だから……

        あっ、シャツもパンツも脱いでるぅッ……!

        なぜ、分かるのって……?

        そんなの聞かないでよ。好奇心かな……こうきしん!!

        「なぜ、顔を隠すのです……? さあ、しっかり私を見なさい」

        副島はストリップし終えると、わたしと向きあう形で仁王立ちしている。

        「きゃッ、キャアアァァァッ……イヤァァーッ!」

        わたしはもう一度悲鳴を上げながら、指の隙間から目に入る光景に驚き
        と恐怖を感じていた。

        初めて見た男の人の身体……
        服の上からは想像つかない、厚い胸板と引き締まった腹筋……
        そして、見てはいけないと思いながら見てしまった男の下半身……

        あれが男の人の……?

        わたしのモヤモヤと違って、ふさふさとした黒い茂みの中から赤黒い棒
        が天を突くように上を向いている。
        まるで獲物を狙う蛇の鎌首のよう……

        嫌ッ、想像していたものと全然違う。

        ……あれがわたしの中に? ……そんなの、うそでしょ?!

        頭の中が恐ろしい想像を押し付けてきて、下半身を勝手に強張らせてし
        まう。
        せっかく残っていた僅かな希望が小さな氷のカケラのように溶けていく。

        「有里様、何を怯えているのですぅ。怖がる事なんてありません。
        ……さあ、私の息子を見て下さい」

        この人、そんなことを言って恥ずかしくないの? 
        それとも興奮してるから……?
        どうしたらいいのよ。

        わたしは顔を覆ったまま必死にあとずさって、壁に背中を押し付けてい
        た。
        一方副島は、一歩一歩ゾンビのように間を詰めていく。

        「もう逃げられませんよぉ。さあ、挨拶の口づけを……」

        なんで突然キスなのよ! さっきと言っていることが違うじゃないッ!

        逃れようとするわたしの肩が掴まれ、身体ごと抱き寄せられる。

        「ちょっと待って……! まだ、気持ちの整理が……お願い……」

        でも言うことを聞いてくれそうもない。
        その証拠に、両手は封じられ男の唇がわたしの目の前に……

        ……これがファーストキス?
        もっと夢のような甘い世界だと思っていたのに……

        でも現実は……ポニーテールを引っ張られ、あごを突き出す惨めな姿。
        そして唇がわたしの唇を奪った!

        ムニュッ!……ムニュゥッ!……ムニュ、ムニュ……

        「むぅぅぅッ、ううぅぅッ……むうぅぅぅぅぅッ!」

        声が出せないし息も苦しい。
        そして、この人の鼻息がホッペタからオデコに容赦なく降り掛かかって
        くる。

        わたしは抵抗しようと、言葉にならないくぐもった悲鳴をあげ続けた。

        ……でも、これが失敗。

        レロッ、れろっ、レロッ……ジュプッ、レロッ……レロッ、れろっ……

        副島の舌が前歯の隙間をこじ開け、わたしの舌に絡みつき唾液を流し込
        んでくる。

        ……気持ち悪い。許してよ……

        でも、叫んでも出てくるのは悲しい呻き声だけ……
        その間も、わたしの口の中は副島の舌に玩具みたいに扱われた。

        前歯から奥歯まで虫歯の検査のように舌先が叩いたかと思えば、歯茎の
        内側を右から左、左から右へと好きなように撫でられこすられる。
        わたしは歯医者さんが嫌いなの。だから出ていってと、叫びたいけど……
        副島の舌に声まで押し返される。

        これじゃ、まるで未来のわたし……

        処女だった舌は犯されて嬲られて……更に大量の唾液が追加みたいに送
        り込まれて……
        気持ち悪くて吐き出しそうで……混ざり合ってどちらの唾液か分からな
        いものが、口一杯に溜まっていって……
        このままだと唇から溢れていく……

        「うぐゥゥゥッ、ぐぐぅぅッ……むぐぅぅぅぅぅッ!……」

        今出来ることは辛いけどこれだけ……

        わたしは瞳を閉じて喉をかすかに鳴らした。

        「ゴクッ」と、はかない響きを残して、副島とわたしの体液が口の中か
        ら消えていく。

        ファーストキスは甘酸っぱいレモンの味……

        このフレーズを話せない口で何度も唱えた。
        そして、やるせない思いを胸の内でつぶやいた。

        (さようなら……わたしのファーストキス……)

        「うげぇっ、ごほぉっ、ごほっ……うっぐっ、はあ、はぁ……」

        口の端から溢れた白いあわ粒の液体が、ダラダラと流れ落ちてくる。
        わたしは、男の目を気にしながら少しでも新鮮な空気を吸いこもうと鼻
        腔を大きくひらいた。

        「私とのキスは有里様の大切な想いでとして、いつまでも残して下さい
        ねぇ」

        副島は、キャビネットの引き出しから何かを取り出しながら話し掛けて
        きた。

        こう言う人って……本当に空気が読めないのか?
        それとも、わざと怒らそうとして言っているのか?

        ……きみはどっちだと思う?

        こんな状況で有里も余裕だねって……?

        本当にそう見える? 
        ……だったら、きみを殴っていいかな。

        ちょっとは、わたしの気持ちを察してよッ!



        「有里様。これ、何だか分かりますぅ……?」

        わたしがファーストキスの衝撃から立ち直れないのを知っていながら、
        副島は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

        こういう場合は、期待しないで男の手に持つ物を見てあげる。

        ほらね、次は何をされるのか大体分かってしまった。
        だから先手を打って言ってあげた。「縛るのね」って……

        見てよ。副島の以外そうな顔……
        さっきの恨みが晴らせたみたいで、気持ちいいよね。
        わたしだって、こんな場面で束になったロープが出てくればわかるわよ。

        それで何をするのって……?

        ……決まっているでしょ。SMよエスエムッ!

        男の人がロープで縛った女の人を鞭とローソクで苛めるのよ。
        わたし、写真で見たことが有るんだから。

        今からそれをするのかって……?

        ……そんなこと……あるわけないでしょ!
        ……だって怖いし、痛そうだし……ちょっと経験するのは早いと思うし
        ……

        「有里様、そんなに顔を赤くしてなにを想像しておられるのですかぁ?
        ふふふっ……あなたが思い浮かべているものと違うかもしれませんが、
        落胆しないでくださいねぇ。
        残念ながら、今回は両腕を拘束するだけなのであしからず……」

        わたしがなにか期待しているとでも……
        馬鹿にしないで欲しいわ。
        ……でも、ちょっと安心したりするけど。

        「それで、どうすればいいの……?」

        わたしは副島の指示に従い、両手を後ろに回し腰のあたりで手首を重ね
        合わせた。

        シュルッ、シュルル……シュル……シュルル……

        肌に食い込む縄の感覚とロープのこすれる音に、思わず身震いさせられ
        る。

        「うっ、きつーいッ……少し……緩めて下さい」

        「だめですよぉ、それではぜーんぜん意味がありません。
        少しは我慢して下さーい」

        こんなバカバカしいやり取りの後、わたしは時代劇の罪人のようにモニ
        ターの前に立たされた。

        ……これが……わたし?

        全裸の身体を後ろ手に縛られて頼りなさそうに腰を引いた姿で、胸だけ
        を強調するように前に突き出している。

        ……こんな惨めな姿を見ていると本当に自分が罪を犯した罪人のように
        思えて、モニターから顔をそむけた。

        「有里様、そんなにおっぱいを突き出して恥ずかしくないですか? 
        それとも、私に早く気持ちよくしてもらいたいとか……」

        いるのよね、こういう嫌味な人って……
        だから言い返した。

        「あなたって、本当に最低ッ! あなたがそう思うなら……やればいい
        じゃない。わたしは負けないんだから……!」

        そうよ、負けない。

        ……でも、威勢のいい言葉とは逆さまに胸の中に重りがぶら下がってい
        るようで、気持ちがマイナス方向にどんどん傾いていく。

        何とかしないと……

        焦るわたしが出した結論は「さあ、早くしてください……!」
        男に催促することだった……



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