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ささやかな夏空
























(7)


9月 8日 月曜日 午後2時30分 早野 有里



「いやぁ、暑いときは海水浴に限りますねぇ。ほぉらっ、パシャパシャパシャ……」

いったい精神年齢は何歳なのって感じで、副島の無邪気な声が聞こえてくる。

わたしは、惨めなお仕置きから解放されて、近くの岩場に身を隠していた。
ここなら人目につくこともないと思ったから。

あの後、副島と横沢さんは、可憐なレディの真ん前で突然服を脱ぎ始めた。
まさか、ここで犯されるのって身構えて、悲鳴を上げようとしたら……驚いたっ!

ふたりとも、服の中に水着を着こんでいたんだから。
それも、わたしと同じ濃紺色のスクール水着。

もちろん男だから、パンツだけ。
でもサイズが小さめで、ビキニタイプで、アソコがもっこり膨らんでいて。
だから、キャーって叫んで、顔を押えて……
気が付けば、ここに逃げ込んでいたってわけ。

その後は、岩場の陰からじ~っと観察……

あっ、勘違いしないでよ。
わたし、男の人の裸を覗く趣味なんてないからね。
これは、自己防衛のため? そうよ、自己防衛なんだから。

でも大丈夫みたいね。
ふたり揃って浜辺でラジオ体操をして、海へ入って行ったから。
あれっ? もうひとり付いて行った気がするけど……無視しよう。


当面の危機は回避されたのかな?
わたしは、出来るだけ平たい岩を見付けると腰を下ろした。

強い日差しが容赦なく照りつけてくる。
やだなぁ。肌が真っ赤になってる。
急にこんな所へ連れて来られたから、日焼け止めをする暇もなかったしね。
今晩のお風呂が怖いなぁ。
きっとヒリヒリするだろうなぁ。

「…… ……」

……な~んか、暇ねぇ。

わたしは、波打ち際でもがきながら逃げ出すカニさんを見付けた。
カニさんは、一生懸命にデコボコの岩を這い上っている。

「……ふふッ!」

わたしの胸に悪戯心が湧き上がる。

「カニさんも、大変でしょう」

そう話し掛けて、逃げ出すカニさんを捕まえては、もう一度、波間に戻してあげた。
そうするとカニさんは、また、もがきながら逃げ出してくる。

この必死になるところが、以外と面白いわね。
さあ、もう一度……って!?
ダメ、ダメよっ!
有里、あなたは何をやっているのよ。
これじゃ、あの変態副島と一緒じゃない。

「カニさん、ごめんね……」

今度は、流れる雲を見ながらぼーっと考えていた。

このまま副島を刺激しないようにして、目立たないように隠れていよう。
そうして、ひたすら時間をつぶして、そうして、車に乗せてもらって家に帰ろう。
その後は……バイトにも行かないと……

ああーぁ、美少女有里の人生って暗いなぁ。
これからも、ずぅーっとこんな生活が続くんだろうなぁ。

「横沢さぁ~ん、私とどちらが早く泳げるか競争しませんか~っ!」

海の方からハスキー声が聞こえた。
……まだ、終わりそうもないわね。

わたしは、視線を声がする方角へと向けた。
波間を漂うように、白いスイムキャップを頭に載せた人たちが、無邪気に水と戯れている。

このシーンだけ写真にでも収めると、微笑ましいけどね。

「有里さんも、一緒に泳ぎませんかぁ~っ? 気持ちいいですよ~っ」

副島が、岩場から覗いているわたしに気が付いて手を振っている。
ニターッとした顔のオマケ付きで……

「クラゲにでも、刺されちゃえぇぇっっ!」



「さすがに、こんなに長時間水に浸かっていると、身体が冷えますねぇ」

「……だったら、早く帰りましょ。
暑いからといって、無茶をしすぎると風邪をひくわよ」

副島は、わたしが隠れていた岩場に上がると、ブルブルッて身体を震わした。
隣では横沢さんがブルブルッて……その隣で、きみまでブルブルッ。

「あなたたち、本当に風邪ひくわよ。さあ、車に戻りましょ」

わたしはブルブルしている3人を促して、駐車場に向かおうとした。

「くくくくっ、有里様。その必要はありませんよぉ」

「……えっ?」

副島がわたしの肩を掴んでいた。
背筋を悪寒が走り、脳裏を嫌な想像がよぎった。

「なにも車まで戻らなくても、この場で充分身体を温めることは可能ですよぉ」

「……ああ、そうなの。
でも、甲羅干しするなら、ここじゃなくてあっちの方がいいわよ。
尖った岩で肌を傷つけるのが、快感なら止めないけど」

わたしは背伸びして周囲を見回しながら、砂浜を指さした。
ついでに、近くでギャラリーになりそうな人がいないかも……

「有里様も言うようになりましたねぇ。でも、内心では分かっておいででしょう。
さあ、そこに両手を突いてください」

副島は、わたしの胸くらいの高さがある台上の岩に視線を送った。
そうなの。嫌な想像って、よく当たるのよね。



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