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恥辱の契約























(七)


八月 四日 月曜日 午後九時三十分  早野 有里
  


        「先生、話ってなんですか……?」

        20分後、わたしは先生の案内である事務室に通されていた。
        ふたりの付き添いの許可をもらった後、わたしにだけ大切な話があると
        言われた時には多少警戒心が湧いたけど、父のことがあるから断るわけ
        にもいかなかった。

        場所はどこって……?

        ちょっと分からないわ。

        診察室からは結構歩かされたけど、通路も暗くて何度も角を曲がったか
        ら……ここがどこなのかは、さっぱり……

        ただこの部屋、薄暗くて狭くて陰鬱な雰囲気がする。
        壁には何カ所も小さなカーテンがしてあるし、その先に何があるのって
        感じがして、ちょっと不気味。

        今は二人っきりかって……?

        あら、心配してくれるの……?
        ……大丈夫よ。いざとなったら自慢のソプラノボイスで大声をあげるか
        ら、安心して。

        あ、先生が来たわ。……さあ、何の話かしら。



        「……これを見て下さい」

        先生は、テーブルの上に1冊のファイルをひらいて、わたしの前に差し
        だした。

        「これは……?!」

        写真・図解・詳しくて分かりやすい説明文。
        そこに記されているのは、父と良く似た病状の実例報告だった。
        そして、つぎのページには具体的な治療法と薬の紹介まで……

        「先生、この資料は……?!」

        「……そうです。ここに掲載されている治療を行えば、早野さんの発作
        は止められると思います。
        ……ただ、病状が悪化しているので症状自体の完治は難しいと思います
        が……」

        「それでは、なぜあの時……」

        続きの言葉を口に出そうとしたけど出来なかった。
        ……なぜなら、わたしの目は薬の単価に釘付けになったから。

        一錠、10万円ッ!!

        説明書きには、1日1錠って書いてあるから……えーっと、1か月で
        300万円ッ!!

        ……これって、保健効くのかな?
        ……だめ、保険適用外って書いてある。

        わたしは、すがるような目で先生を見つめた。

        「お父さんを助けたいですか?」

        大きくうなづく。

        「本当にそう思っていますか?」

        また大きくうなづく。

        「そのためなら、あなたはどんなことでも出来ますか?」

        うなづこうとして、首が止まる。……ちょっと待って、何か変……?

        「それは、どういうことですか?」

        わたしはゴクリと唾を飲み込み、もう一度先生の顔を見た。

        「いえ、言葉のとおりです。あなたがお父さんのために私たちの要求に
        従ってくれるのなら、この薬代プラス治療費も含めて用立てても良いと
        言っているのです」

        この人……なにを言っているの?
        わたしに……何をさせようと言うの?

        意味が分からず押し黙っているわたしに、先生は具体的な説明を始めた。

        「……実は、ある方に頼まれましてね。
        その方が仰るには、あなたの身体を自由に出来るのなら、お金を出して
        も構わない。それも、お父さんが治療を受けている間は何年でも面倒を
        みることを約束する。
        更に、今後も大学に通うことや、普段の生活はある程度認めようと……
        ただ額が額ですから、1回や2回という訳には参りません。
        まあ数年、あるいは10年くらいは耐えることになると思いますが……
        どうされます?
        私個人としては、良い条件だと思いますが……」

        「……?!」

        わたしの身体……それが何を意味するのか分かっている。
        世の中には、お金でそういう行為をする人たちがいることも知っている。

        ……でも、わたしには関係ない世界だと思っていた。
        少なくともこの部屋に入るまでは……

        「……わたしは……何をすればいいの……?」

        無意識に口がひらいて、慌てて閉じようとしたけど遅かった。

        「その言葉……ご理解してくれたものと判断してよろしいですね」

        また無意識に、今度はうなづいていた。

        「簡単なことです。あなたには、指定された日にこの部屋で男の相手を
        してもらいます。
        そして、それを撮影しあの方にコレクションとして提供する。
        指示を与える者の言葉通りに行為をしさえすれば、何も難しいことはあ
        りません」

        男の相手・撮影・行為……

        抽象的な単語を、わたしの頭が勝手な映像に置き換える。
        よくドラマなんかで身体を張って愛する人を守るシーンがあるけど、今
        のわたしもそんな感じかな。

        でも、ちょっと頼り無いかも……

        「それではあなたの気が変わらないうちに、この契約書にサインをお願
        い出来ますか?」

        わたしは、父を守るスーパーヒーローに成りきったつもりでペンを握っ
        た。



        「……これで契約完了です」

        先生の言葉に、ハッとして書類に目を落とした。

        わたし……勢いでサインしちゃった。
        運命の分かれ道って、もっと深刻なものと思っていたけど、案外簡単に
        決まっちゃったね。

        ……でも、これで終わりではなかった。
        先生はわたしの調査書を作成すると言って、書類を1枚テーブルに置い
        た。

        「私の質問に正直に答えて下さい」

        それだけ言うと彼は色々な事を聞き始めた。

        最初は、極当たり前の基本的な事項……
        生年月日に始まって、身長・体重・血液型。
        ……それにちょっと顔が赤くなったけど、スリーサイズ、妊娠している
        かまで……

        このぐらいなら、覚悟していたからある程度仕方ないと思っていた。

        ……でも、次第に質問の中身が陰湿で卑猥なものに変化していった。
        初潮はいつきたとか……陰毛が生え始めたのは、いつ頃かとか……

        わたし、つい言葉を詰まらせちゃった。

        だってこれは、女の子にとって他の人には隠しておきたい大切な思い出
        なんだよ。
        ……分かるでしょ、この気持。

        でもね、結局答えちゃった。だって契約したもんね。

        因みに、初潮は中学生になった頃……
        これは平均的だと思うよ。

        ……後、下の毛が生え始めたのは中学2年生になってから。
        その頃からわたしぐんぐん背が伸び始めて、気が付けばお尻もふっくら
        してきて、ある日お風呂に入っていて気が付いたの。
        身体を洗っていたら……その、指が下腹に触れて何か違和感があったか
        ら。
        それで良く見てみたら、もやもやっと生えてたわけ……

        ……ところで、松山先生の質問まだ終わらないね。

        「あなたは、男性経験がありますか……?」

        やっぱり、まだ終わらない。

        「処女かと聞いているのですッ!」

        随分とストレートな聞き方……
        当たり前でしょ! と言う言葉をぐっと堪えて、素直に答えた。

        「はい、処女です」と、目の周りが熱くなるのを感じたけど具体名で言
        っておいた。
        もう一度は勘弁して欲しいから……

        「前回の生理は、いつでしたか……?」

        「はい、10日ほど前だったと思います」

        これも、なんでそんなことって言い返そうとして止めた。

        ……どうせ、わたしは男の人に好きにされるんだ。
        勝手に妊娠してもらったら困るからだと思うことにしたの。

        ……あれ? 先生の目、いやらしく感じるけど気のせいかな。

        わたしは、初めて会った時の全身を舐め回す視線を思い出して、肌が総
        毛立つ気がした。

        「次の質問は答えにくいと思いますが、正直に答えなさい。
        あなたは、オナニーをしますか? 尚、している場合は週何日していま
        すか?」

        今オナニーって言わなかった?
        それって、あれだよね、自分で慰めるってやつ。

        「…… ……」

        言えない。そんなこと絶対無理ッ!

        「どうしました……? やっぱり恥ずかしいですか?」

        さっきの視線、間違いじゃなかった。
        この先生、わたしの恥ずかしがる姿を楽しんでいるんだ。

        悔しいッ!……悔しいけど答えなくちゃ……いけないよね。

        「……ッ。あります……」

        わたしは答えた。でも、わたしにも聞こえなかった。

        「声が小さいッ! もっとはっきりとッ!」

        「あります。オナニーしたことありますッ!」

        今度は、自分の耳にもしっかり届いた。

        そうよ。それがどうしたと言うのよ。
        ……女の子だってすることくらい、あるわよッ!

        「ほう、あるんですね。で、週に何日位……? まさか、毎日とか……
        クックックックッ……」

        この人って……!!
        思い尽くだけの悪口を、声に出さずに叫んでから言ってあげた。

        「そんなわけ、ありません。……月に1回位です」

        「本当ですか……?」

        「本当です。信じて下さい……」

        泣かされそうになった。
        ……でも、泣かなかったし涙も滲ませなかった。

        こんな男を喜ばせて堪るもんですかッ!



        ごめんね。待たせちゃって……

        契約の手続きが全部終わっているのに、あの男しつこくて……何か飲ま
        ないかって言うんだよ。
        わたし、母が待っていますッと言って、部屋を出てきちゃった。

        きみにも心配かけたわね。

        ……ごめんなさい。そして、ありがとう。
        ……それと、きみには隠し事をしたくないから……これ読んでくれる?



          契約書

          私、早野有里は以下の行為に従う事を約束いたします。

        ● 私の時間・行動は、全て定められた管理者の管轄の下に置かれるもの
          とする。

        ● 管理者が、私の身体をどのように扱っても抵抗はいたしません。
 
        ● 私は、管理者のどのような性的行為にも全て従います。

        ● 私は、この契約内容を他者には一切公表いたしません。
 
          以上、もし契約が守れない場合は、どのような措置をとられても異
          議申し立てはいたしません。


          署名  早野 有里



        ちょっと文字が乱れているけど、署名もあるでしょ。

        これで、わたしは鎖に繋がれた奴隷と一緒。
        ……それもエッチな奴隷。

        そうだ。初めてきみに会った時に、わたしのスリーサイズ聞いたよね。
        あの時はちょっと恥ずかしかったけど教えてあげる。

        バスト78、ウエスト51、ヒップ82……
        ついでに体重は、51キロ。

        悪くないスタイルでしょ。……ただし、胸のことは無視してね。

        ……それと……これは、わたしの独り言だと思って聞いてね。
        きみにだけの、わたしからの告白だよ。

        わたしのオナニー初体験は高校一年生のとき……
        あれは体育祭が終わった頃だったから、確か10月の始めくらいかな。

        たまたま友達がこっそり持ってきたいけない漫画を、昼休みに友達と回
        し読みしていて……
        その、大人の世界に興味を持ったの……

        その夜、わたしはベッドに入ったけどなかなか寝付けなかった。
        生理が終わった直後でちょっとイライラして、おまけに昼間の光景が頭
        に浮かんで……
        ……気が付けばわたしの指は、パジャマのズボンの上から股のつけ根を
        スリスリと……

        そうしたら、あそこがキューッという感じがして、ものすごく切ない気
        分になっちゃった。
        だってこんな感覚、今まで感じたことがなかったから……

        わたし、何が起きてるのか分からなくて、そうしたらものすごく怖くな
        ってきて……
        結局そのまま寝ちゃった。

        今思えば可愛いやり方だよね。

        ……あ、勘違いしないでよ。
        今でもわたしは指だけだからね。

        エッチな道具も持っていないし、使ったこともないんだから……
        本当よ!……信じてよね。

        まあ、あの頃と違って下は脱いでするけどね。
        だって、いやらしい液でパジャマやパンツ、汚したくないでしょ。

        はい、独り言はこれでおしまい。
        どう? わたしの秘密の思い出……

        なぜ、こんなこと話したかって……?

        本当はね……怖いんだ。これからのこと……
        だから、きみに練習代になってもらったの。
        これとは比較にならないくらい恥ずかしいことをさせられそうだから……

        ……あれ、ちょっと怒った?

        許してね。これからも、きみとは良いコンビでやっていけそうなんだか
        ら……





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