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ピンクの傀儡子参上 ?!























(5)
 


「えーっと、それでご用件は……?」

「……あ、あの……んん」

お父さんがまた同じセリフを繰り返した。
それに合わせるかのようにお客様も、喉の奥で言葉にならない声を出す。
それも2度目じゃない。これが3度目。

荒い鼻息に混じった女の人の細い声に、あたしが気が付いてからもう10分くらい経過している。
その間カウンターを挟んで、お父さんとお客様は見つめ合ったまま。
無駄にふたりの時間だけが流れていく。

あたしはお父さんの横腹をヒジで突きながら、そのお客様?を観察していた。

年齢は30代後半かな。
ちょっとウェーブのかかった長い髪をロングレイヤーにまとめた結構美人な女性。
まあ、美人にもいろいろあるけど、どちらかというと面長な顔立ちに切れ長の瞳だから、モデル顔かな?
きっと学生時代は、男子生徒代表のマドンナさんだったりして。
でも、そんな魅力的な美人さんなのに、もったいないよね。
そんな思い詰めた表情をしていたら。

「あ、あのお客様、ご、ご用件を仰っていただかないと……」

お父さんの声が上ずっている。
おでこに玉の汗を浮かべて、チロチロとあたしの方に目で合図を送ってくる。

でも、どうしようかな?

愛娘の貴重なヌード写真を、あっさり8万円で売り渡しちゃうお父さんだし……
そうはいっても、いつまでもこの人に居座られてたら、あたしの丸写し宿題もはかどらないし……

仕方ないわね。
ここは、あたしがビシッと収めてあげる。

「お客様! 当店は写真館でございます。
ご用件がないのであれば、どうかお引き取りくださいませ」

あたしは、うつむき加減の女の人に少々棘のある声ではっきりと言ってあげた。

突然の若い女の子の声に驚いたのか、その人は顔を上げた。
そのまま乾いたくちびるを震わせて呟いた。
目を虚ろにして、真っ青な顔で……

「ピンクの傀儡子……さん」って……

有り得ないと思っていた単語を……
隣でお父さんが腰をヘナヘナとするのを支えながら……

あたしも呟いていた。
「世の中には、不思議が満ち溢れてる」って……



「それで貴女は……いえ、久藤さんは、僕をピンクの傀儡子と知って来られたのですね?」

「……はい。そうです」

その後、あたしたち3人は例の地下スタジオに場所を移動した。
リサイクルショップで調達した塗装の剥げかかった丸いテーブルを囲んで、お父さんと久藤律子(くどう りつこ)さんが真剣な表情で話し込んでいる。

あたしは、ふたりの話に聞き耳を立てながら愛用のスマホを見ていた。
ブックマークから『ピンクの傀儡子』を探すと、画面にアップする。

突然流れ出した『月○仮面』のテーマ曲と共に現れたのは……

『今すぐお金が入用の貴女!! ピンクの傀儡子が参上致します!!』

という、画面いっぱいに映し出された悪趣味なピンク色のロゴと、その下に続く読むのが面倒臭くなりそうな長々とした説明書き。

大まかに言うと、お金の欲しい人はヌード写真を撮りませんか~って……
ただし女性だけですよ~男性はご遠慮くださいね~って……
信用ある個人の方にしか売却しませんから安心ですよ~って……
因みに取り分は、山分けですよ~ヒフティーヒフティーですよ~って……

まあ、こんな感じかな。

ただ、前から気になってたんだけど、これって悪い人たちが経営している金貸し屋さんと間違われないのかな?
ううん、それ以上にこのサイトを見て人生の大決断をする女性って……
やっぱり、世の中には不思議が満ち溢れてる……かな。

あたしはスマホから目を離すと、小さく欠伸をした。

「……ということは、それなりのお覚悟を持ってと理解しても構いませんね。
それで……あの、失礼ですが、どの程度ご入用で……?」

「い、いえ……違うんです。
私……お金が欲しくでここへ来たわけではありません。ただ……」

「ただ……?」

お父さんの身体が前のめりになって、思わずあたしも耳を傾けていた。

「あ、あの笑わないでくださいね。
わ、私……主人の秘密を見ちゃったんです。
そ、そのぉ、書斎でパソコンを見ながら……自分を慰めているところを……
それで主人が仕事で留守の間に、いけないこととは思いながら、こっそりパソコンをひらいてみると……その……若い女の子の水着の写真が……」

「要するに、ジュニアアイドルの写真集ですね。
それで、その……大変失礼なこととは思いますが、よ、夜の営みはどの程度の間隔で……?」

「えっ?! よ、夜の……ですか?」

訊いているお父さんが真っ赤になって、訊かれた久藤さんも顔を赤くしている。
ついでにあたしはというと、目を輝かせながら何も映っていないスマホをじっと見つめている。

「そ、それがここ半年ほど一度もなくて……
以前は少なくても週に一度は愛してくれて……」

「それは、それは……お辛いでしょうね」

お父さんが同情するように何度もうなづいている。
でもちょっと変だよ。これじゃカウセリングだよ。

「それで、お願いしたいんです。
ピンクの傀儡子様、どうか私の写真を撮ってはいただけませんか?
私の……律子の恥ずかしい写真を撮ってください!
費用はいくらでもお払いいたします。主人の……あの人の心を……うっ、うぅぅぅぅ……」

律子さんは、目頭に指の背をあてたまま嗚咽を繰り返している。

話していることは、なんとなくわかるけど……
でも恥ずかしい写真を撮ったからって、旦那様の心を鷲掴みにできるのか、ものすごく微妙だけど……

でもでもでも……いいかも♪♪

費用はいくらでもってことだし……
だったらあたしたちの薄っぺらいお財布も潤うし……
それにそれに……サイトを立ち上げて丸2年、初めての記念すべきお客様だし……

「今から撮影します?」

あたしは営業スマイルで訊いていた。



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