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ストリップ&性器観察























(十)


八月 十一日 月曜日 午後九時  早野 有里
  


        「さあ有里様、最初の行為の開始ですよぉ。
        挨拶文通りに、まずは生まれたままの姿になってもらいましょうかぁ」

        ……生まれたままの姿?

        いよいよ裸にならないといけないんだ。
        それに……わたしは副島の言葉を思い出していた。

        なるべく男性を興奮させることが出来れば、ポイントが高い……?

        どうすればいいの……?
        ただお風呂に入るように脱いだらダメなのかな……?
        もっといやらしく……?
        ……ダメッ! 考えがまとまらない。

        「どうしましたぁ……? 脱げないんですかぁ……?」

        副島が囃し立てるように催促する。

        もうこうなったら、どうにかなるつもりでッ……!

        「お待たせしました。御主人さまぁ……♪♪」

        どう? 可愛らしい声で話せてる? 
        ……後は、上目づかいにカメラを見つめてと……

        さあ、わたしなりのエッチぽい脱ぎ方だよ……

        まずは、もったいぶるように視線を泳がせてからジーンズを脱いでいく。
        ……まさか下から先に脱ぐとは思っていないでしょ。

        この状態を想像してみてよ。
        ……ちょっとエッチだと思うよ。
        だって、Tシャツの裾からチラッと見えるピンクのパンティー。
        ……きみもそう思うでしょ?

        おまけに、脱ぎ方にもこだわりを……
        前傾姿勢のままカメラに微笑み掛けてゆーっくりと焦らすように、お尻
        を突き出しながらひざ下まで引き降ろしていったの。
        そして、片足づつツマ先を伸ばしながら、股の奥がが見えるように太も
        もを上げ気味に抜き取っていく。

        ……どう、ここまでは良い感じでしょ。
        ……でも早くしないとね。

        次はTシャツを……
        ここはもったいぶらずに一気に脱ぎ去ることにした。

        ……ただ、脱いだ後にこだわりを……

        乱れた髪を整えるように、あごを上げ気味に頭を軽く振ってみたの。
        ……どう、セクシーに見えないかしら?

        これで、わたしに残されたのはブラとパンツだけ……
        因みに今日の下着は、ピンクで上下お揃いの新品。
        理由はきみが想像してね。

        次はどっちからいく……?

        さすがに今度はブラだよね。
        温泉なんかで、パンツからの人もいるけどね。
        ……さすがにきついかな。

        それより見てよ。副島の視線……
        わたしのブラとパンツを何度も往復してる。

        いやだ。自然と呼吸が荒くなってきた。
        ……急がないと、指が本当に動かなくなりそう。

        わたしは背中に両手を回すと、ブラのカギホックに指を掛けた。
        でも、指が震えてなかなか外れてくれない。

        どうしたの? わたしの指……

        叱りつけてなだめて……
        ようやく、パチンという音が心に響いて……
        肩紐が緩んで胸が急に軽くなった。
        そして、下をうつむいたら弾かれたように波打つ白いふくらみが現れて
        た。

        でもね、ちょっと限界かもしれない。

        さっきから副島の目が気になって……わたし、思わず両手で乳房を隠し
        ていた。
        そう、グラビア雑誌の手ブラみたいに……

        もう、真っ直ぐカメラを見ることも出来ない。
        わたし顔もそむけていた。

        「どうしましたぁ。後1枚残っていますよぉ」

        副島がにやついた顔で催促する。

        なにしてるのよ。しっかりしなさいッ! 
        こんなんじゃ、ポイントが取れないよ。

        心の中で挑発するように励ます自分がいる。

        でもね。指が言う事を聞かないの……
        だってわたし……男の人の前でパンツだけなんだよ。
        こんなの惨めで恥ずかしすぎる。

        「最後の1枚。脱がせてあげましょうかぁ……? 有里様」

        痺れをきらした副島の催促が聞こえる。

        「いいえ結構です。自分で……脱ぎますッ!」

        わたし、思わず言っちゃった。
        そうよね。こんなところで負けたくないよね。

        わたしはカメラを睨みつけると、両手を腰に張り付く最後の1枚に添え
        た。
        胸の鼓動が大きくなって、おでこをつーっと汗が滴り落ちてくる。

        ……これ以上の演技は無理ッ!

        でもね。最後の一枚は潔く脱いであげる。
        負けない。負けないんだから……!

        呪文を唱えるように心を強く持ち、一気に引き下ろした。

        スルッ、スル、スル……スル、スル……

        薄布は一瞬で丸まり、紐状になって足首に引っ掛かっている。
        そして、汗ばんだ内腿が冷たい空気に撫でられて、わたしは急いで足首
        から抜き取った。

        「……これで……満足……?
        言われた通り……生まれたままの姿になってあげたわよ」

        わたしは乱れる呼吸をごまかしながら、カメラを挑発するように胸を突
        き出し、余裕を見せるようにポーズを決めた。

        もちろん両手で隠したりなんかするもんですか!
        なによ、裸くらいッ!
        ……こんなもの、どうってことないんだから……

        「そう。その表情を待っていました。恥辱にあえて逆らおうとするその
        顔……いや実に美しい。
        それに、いい身体をしていますねぇ。
        ……これなら御主人様もお喜びになるでしょう。
        まだ子供みたいな顔付きですが……身体の方は……ククククッ……もう
        大人って感じですねぇ」

        「それで……どうなのよ……? ポイントは付くの……?」

        ここはグッと堪えて……
        こっちの方が大事なことだから……

        「ええ、もちろん。それにしても、あなたもやりますねぇ。
        このまま努力すれば、ストリップだけで食べていけるかも知れませんよ
        ぉ」

        「……クッ……!」

        ……でも良かった。
        死ぬほど恥ずかしい思いをした甲斐があったもの。

        「少しの間、動かないで下さいよぉ」

        下品な笑顔を浮かべながら、副島はわたしの前に立ち塞がった。

        「な、何をする気……?」

        不意を突かれて声が震えたわたしは、悟られないように目を細めた。

        「いえ、有里様の身体を観察しようと思いましてねぇ」

        「身体の……観察……?」

        「ええ。あなたの下着に守られていた女性ならではの部分を観察し、資
        料として残していくんですよぉ」

        そのファイル……?!
        副島が手にしているのは、松山先生によって作られた、わたしの秘密……
        わたしの少女としての記録……

        ……つまり、そういうこと。
        この男はいろんな小道具を持ち出しては、どこまでもわたしを辱めたい
        みたいね。
        どうせこれから嫌というほど汚されるだろうし、これも経験と思って協
        力してあげる。

        ……さあ、見なさい。

        わたしはカメラを見据えて、さらに胸を突き出してあげた。

        「まずは、おっぱいから観察しましょうかぁ」

        わたしの余裕の態度が気に入らないのか、副島はふくらみに顔を近づけ
        ると、両目の視線を舐めるように動かして少しでも恥辱を与えようとし
        た。

        「資料によれば、バストは78とありますが数字通り未発達ですねぇ。
        ただし、ブラを外しても垂れないばかりか上を向いて弾力は充分のよう
        です。乳首は小粒で色は薄紅色……」

        ちょっと意外。もっと酷いことを言うと思ったのに……
        胸の数字には触れて欲しくなかったけど……
        まあ、本当のことだし仕方ないかな。
        このぐらいならまだ大丈夫。
        そうよ。余裕、余裕……

        「次は下腹部ですねぇ……」

        と言うと同時に、副島はわたしの足元にしゃがみこんで下から大切な処
        を覗き上げている。

        「あ、あの……なにを……しているの……?」

        この人がなにをしているのか分かっている……でも、一応聞かないと……
        やっぱり、さっきまでの余裕はどこかに飛んでいってしまったから……

        「なにを……とは……またまた、ツマラナイ質問ですねぇ。
        ……見ればわかるでしょ。有里様のおま〇こを、観察するんですよぉ」

        ……お、おま……!?

        知っていても決して口には出来ない、禁断の単語……
        こんな言葉、人前では絶対にしゃべっちゃいけない……

        ……もう、無理ッ!

        わたしの両足があっという間に閉じ合わさって、ささやかな陰りと割れ
        目の先端以外、完全にブロック……
        そして短い悲鳴を……

        「ヒッ、ヒイィィーッ……!」

        「有里様。暗くておま○こがよく見えません。せめて肩幅くらいにひら
        いてくれませんか?」

        この人……また、おま……って言った!
        そして、恐る恐る視線を下へとずらしていく。

        ニターッ……!

        おぞましい。わたしを見上げる視線ッ!

        「イヤァァァァーッ!  みっ、見ないでぇッ! 見ないでよッ!」

        わたしは1メートルくらい後ずさって、胎児のように身体を丸めて床に
        突っ伏した。

        もう駄目……! 本気でダメ……!
        わたしの覚悟って所詮こんなもの……
        ……今は何も考えられない。

        「あのぉーぅ、有里様……どのような格好をなさろうと、素っ裸の身体
        は隠せませんよぉ。今もほらぁ……」

        副島が液晶モニターを指し示した。

        そこに映る、深い割れ線の入った白い楕円形の物体……
        ……もしかして……お尻?

        わたしは、もう一度悲鳴をあげると部屋の隅に身を寄せた。



        「ううぅぅぅぅッ……ヒック、ヒック……ンッううぅぅぅぅっ……」

        それから10分くらい。顔を壁に押し当てるようにしてわたしは小さい
        子供のように泣き続けた。
        何度か副島の声が聞こえたけど、なに言っているのか分からない。

        ねえ、きみ。
        情けないって思っているでしょ?

        ……そうよ。きみの前では強がっていたけど、いざ男の人の前になると
        全然ダメ。
        ……やっぱり恥ずかしいよ。
        ……だって、あそこを覗かれたんだよ。

        きみだって、性器を他人に見せるのは辛いでしょ。
        でも女の子の場合、それ以上にもっと辛いんだよ。
        わたしも……その女の子……

        もうやめよう……所詮無理だったんだよ。
        きみも……そう思うでしょ?

        …… ……
        ……!……?!
        えっ?……痛ッ?!
        ……どうして叩くのよッ!

        ……わたしに、もう一度挑戦しろって言うの……?
        ……わたしを信じてくれるの……?

        ……うーん。きみって不思議だね。
        なんだか元気が湧いてきて、心が前向きになるんだから。

        ……恥ずかしいけど……もう一度がんばってみようかな。
        ……わたしが決めたことだもんね。

        ありがとう……



        わたしはカメラに向けて頭を下げた。

        「有里の……あそこを見てください」

        そして自分から股をひらいた。

        さっきとは違う。これを乗り越えないと次には進めない。
        さすがにあの単語は言えなかったけど、これで許してくれるかな?

        「おや、随分と殊勝なことですねぇ。
        この10分間であなたの心に何の変化が起きたのかは分かりませんが、
        覚悟を決めてのことでしょうねぇ。
        私もこれが仕事ですから、このまま続けるのが本望ではあります。
        ……ただ、これでは面白くありませんねぇ。
        第一、私のプライドが許しません。
        ここはペナルティーとして、あなたには思いっきり恥ずかしがってもら
        おうと思うのですが、いかがでしょう?」

        副島の目が輝いている。
        まるで好奇心剥き出しの少年のよう。
        女の子の秘密を知りたくて仕方がない。そんな目をしている。
        それでも構わない。

        有里の性器、見せてあげる。

        わたしはカメラに向かって大きくうなづいた。
        あえて内容は聞かない方がいいと思う。
        もし知ってしまったら、もう動けないと思ったから。
        でも、きみの応援がある限りわたしは頑張ってみせるね。

        「ほぉーっ、いい覚悟ですねぇ。
        素っ裸のまま自分から股をひらいて、おまけにもっと辱めて欲しいとは、
        とても18才の少女の言葉とは思えませんねぇ。
        どうやら、有里様は淫乱の素質がおありのようで……
        まあそういうことなら、それに相応しいポーズでもとってもらいましょ
        うかぁ」

        副島は、わたしから少し離れた所に立つと腰を屈めた。
        またさっきみたいに下から覗かれちゃうのかな?

        「両足をひらいたまま、腰を落としなさい。
        背筋を伸ばして、腰を前に突き出してね……ははははっ……」

        わたし、笑われている。
        恥ずかしいのを必死で我慢して惨めなことをしようとしているのに、ど
        うして……どうして笑うの……

        「有里さーん。おま○こ、まだですかぁ。
        それとも、黒ずんでビラビラが外にはみ出しているとかぁ……ふふふふ
        っ……はははははっ……」

        「……ひどい」

        そういう言い方って、ものすごく傷つく。
        ……でも仕方ないかな。
        普通の女の子なら、こんなはしたないことするわけないもの……

        さあ、辛いことは早くしてしまおう。

        わたしはスクワットをするように姿勢を正したまま、ゆっくりヒザを折
        り曲げていった。
        ヒザ頭が大きく外を向いて、太ももが痛いほど左右にひらいている。

        声を聞かせたくないから歯を食い縛っているのに……
        悔しいな。噛みあわせた奥歯がカチカチと鳴ってしまう。

        恥ずかしいよ。死にたいくらい恥ずかしい!
        ……でも、わたしは耐えてみせる。
        目の前できみが応援していると思えば、辛いけど勇気が湧いて来る。

        「こ、これでいいでしょうか……?」

        わたしは激しい羞恥に息を切らせながら、副島を見上げ、その目線を追
        い、まぶたを閉じた。

        「よろしい。しばらくそのままの姿勢でいなさい。
        その間に、あなたの性器を徹底的に調べてあげますからねぇ……ククク
        クッ……」

        さげすむような声が耳に届き、太ももの内側に人の気配を感じた。
        思いっきり見られている……有里の性器……

        「えーっ、大陰唇の色は、やや赤黒いですねぇ。
        恥丘はこんもりと盛り上がって、やや肉厚な感じがします。
        こういうおま○こは感じやすいと言われますから、楽しみですねぇ。
        割れ目も深そうで……残念ながらヒダヒダのはみ出しは無しと……
        それに左右は、ほぼ対称ですね。
        次にクリトリスは……うーん、フードを被っていて中の真珠は確認でき
        ず。
        後は陰毛ですね。
        ……ずばり言えば、恥ずかしいぐらい薄いですねぇ。
        割れ目の先端まで丸見えですよ。
        これなら、おしっこをしても汚れることは無いので、まあいいかもしれ
        ませんねぇ。
        一層のこと、全部剃ってしまえば本当の女の子になれるんですが……
        まあ、毛並みは良しと……色は当然黒色……
        表面上はこんなところでしょうかぁ」

        ……もう、聞かせないでッ!

        誰にも見せたことがなかったのに……
        ここは女の子の大切な場所なのに……

        でも、耳を塞がずじっと耐えた。
        これからもっと恥をかくことになりそうだから、こんなことでわたしは
        負けない。

        「有里様。ついでですから割れ目の中も調べましょうか?
        申し訳御座いませんが、ご自分でひらいてもらえます……?」

        太ももの間からくぐもった声が聞こえる。
        割れ目の中……? 大陰唇をひらいて中を見せろってこと……?

        わたしはカメラにうなづいて、右手でピースサインを作ると割れ目に押
        し当てた。
        そして、わたしのあそこを自分でひらいた。

        「ううぅぅッ……くぅぅぅぅッ……!!」

        思わず声が漏れてしまう。

        でも、わたしは負けるわけにはいかない。
        だから、悔しいとか恥ずかしいとか思ってはダメ。

        ……ほら、副島の解説が始まった。聞かないと……

        「まずはヒダヒダの色から。うーん、どう表現したら……?
        そうですねぇ。私の息子が同じ色をしてたような……もちろん中身です
        よぉ。
        次に小陰唇の長さは……?
        あ、スケールを持ってくるのを忘れました。
        だいだい6センチくらいでしょうかぁ。
        ……ということは、そのぐらいの直径までOKですねぇ。
        後は、ヌレヌレにはなっていないと……残念ですねぇ」

        ……それって、どうなの?

        できれば、標準って言って欲しいな。
        だってわたし……他の人の見たことがないから、わからないもの。

        ……でも、結構ひどい言い方するね。
        6センチのものなんか入れられたら、壊れちゃうよ。

        あれっ、きみは……見ないの……?
        あの人と一緒に覗いても構わないよ。

        ……えっ、嫌なの?
        ……それって、わたしの性器が醜いから?

        ……違う?
        ……相変わらずきみは優しいね。
        ……でも、遠慮はいらないよ。
        今ならあの人も見ていないし……

        ほら、両手を使って中までひらくから……ちゃんと見てよ。
        そう、出来れば、まだ汚されていないあそこを……きみには見て欲しい。
        そして、思い出として記憶して欲しいんだ。

        はっ、早くして……わたしの意識があるうちに……





正常位でお願いします























(九)


八月 十一日 月曜日 午後8時三十分  早野 有里
   


        「そうですか……では、事前の打ち合わせに入りましょうかぁ。
        えーっ、有里様にお聞きします。
        初エッチは、どの体位がよろしいでしょうかぁ?
        ご希望があれば、どうぞぉ……」

        「えっ、体位……?!」

        ぼーっとしているうちに、この人なにを言っているの……?
        ……その、姿勢ってことよね。
        男の人と女の人がエッチをする時のフォーム……?
        ……ちょっと違うかな。

        でもこっちから詳しく聞くのって、なんか恥ずかしい気がするし……
        こういうときには分りませんって顔をして、じっと黙っているのが一番
        かも……

        そうしたら案の定……
        わたしが困惑していると思ってくれたのか、副島は一枚のイラストを見
        せてくれた。

        どれどれ……?
        ……えっ?! なんなのよッ?!!

        正常位・バック・騎乗位・座位・その他色々……?!
        キャラクターの顔がみんな笑顔でぇッ……?! 
        ……それで裸でぇッ……?!
        ……セックスぅッ……?!
        ……なにが、愛する男女の漫画解説よぉッ!

        なにを印刷したのか知らないけど、目をそらしながら、ついつい見てし
        まったじゃないッ!!
        こんなもの見るんじゃなかった。
        ……顔が一気に火照ってきた。

        「やはり初心ですねぇ。有里さん、可愛いですよぉ」

        「それって、褒めているんですか……? それとも馬鹿にしているんで
        すか?」

        「どっちにとられても、構いませんよぉ」

        悔しいけど……この中から選べってこと……?
        わたしの初体験の、これが体位……?

        きみまで、なに、ニヤニヤしてるのよ。
        ……わたしだって……その……するときに、足をひらくことぐらい知っ
        ているわよ。
        ……でもね。本当に大切なのは、恋人や夫婦がベッドで寄り添い結ばれ
        ていく……
        そうよ。わたしが知っているのは映画のラブシーンみたいなものよッ!
        仕方ないじゃない。まだ経験がないんだから……

        わたしが決めかねているのをいいことに、副島はパンフレットを取り上
        げた。

        「答えたくなければ、それでもいいですよぉ。
        その時は、好きなようにやらせてもらいますからぁ。
        そうですねぇ。私の好みとしては、騎乗位、バックなどですが……
        そうそう。ここには載っていませんが、張り形で自らの処女膜を破ると
        いうのも……いいですよねぇ……ククククッ……」

        「いやッ、やめて下さいッ……!」

        そんなのムチャクチャ! もう聞きたくない。

        わたしは耳を塞ぎたいのを我慢して副島からパンフレットを奪い返すと、
        目をそらすようにしてなるべく普通そうな姿勢を探した。

        どれよ……どれが標準……?
        早くしないと……わたしの初体験、メチャクチャにされる。

        そして結局、記されてある単語を信じることにした。
        正という字があるんだから普通なんでしょ。

        「あの、決めました……正常位で……お願いします……」

        でも、自分で言うのもなんだけど声が小さい。

        「すいません。聞き取れませんでしたぁ。
        ……何、張り形ですかぁ? それはそれは……」

        この人、わたしを辱めて楽しんでいる。
        契約に立ち会った松山先生と同じ性格みたい……

        ううん、今はそんなことより……
        ものすごく悔しいけど、そんな恐ろしいこと絶対阻止しないと……!

        「違います。意地悪しないで下さい。
        ……せ、正常位でお願いしますッ……!!」

        あーあ、大きな声で言っちゃった。
        それなのに副島って人……にやついたスケベそうな目でこっちを見てる。

        「そうでしたかぁ。正常位ですねぇ……承りました」

        どうして、この人……
        こんなときだけ礼儀正しそうに挨拶するのよ。

        また、胃が痛くなってきちゃった。



        「それでは、有里様。ショータイムを開始いたしましょうかぁ」

        副島はうきうきとした顔で、何かの劇でも始めるように大げさに宣言し
        た。

        いよいよ始まった。

        わたしも覚悟を決めようと、お腹に力を入れてこぶしを握り締める。

        「では有里様。カメラの前で御主人様にご挨拶を……」

        副島は、ポケットからプリントアウトしたコピー用紙を取り出すとわた
        しの手に持たせた。
        そして、これを読めと目で合図をしてきた。

        さっきのイラストのこともあるし、どうせろくでもないものに決まっている。
        わたしは警戒しながら下読みを始めて……案の定、途中で読むのを止め
        た。

        なによ、この文章……!
        生まれたままの姿……! 処女喪失ショー……!
        その上、顔の表情まで指示している。

        冗談じゃない。こんな物ッ! として、床に投げ捨てようとしたけど……
        その手が止まった。

        ……なぜ、きみが止めるのよ……?!
        それに、どうしてそんな悲しい顔をするのよ?

        これから、恥ずかしくて辛いことをしなければいけないのに、こんなこ
        とで逃げるのかって……?

        ……でも……それは……
        …… ……
        あーあ。それを言われたら反論出来ないじゃない。
        ……確かにそうだよね。
        これから男の人の相手をするのに……このぐらい何ともないよね。

        ……きみの言うとおり。
        そうと決めれば、ここは手抜きなしでいくよ。

        わたしの長所は何事も一生懸命……これはお父さんと一緒……
        例えそれが辛いことでもね。

        わたしは指定されたメインカメラの前に立つと、深くお辞儀をした。
        そう、ポニーテールの髪が下に垂れ下がるくらいに……

        そして、とびきりの笑顔を作って挨拶を始めた。

        「はじめまして、早野有里と申します。
        このたびは父の治療費を援助頂き、誠にありがとうございます。
        このお礼といっては、何ですが……
        ……ど、どうぞ私の身体を、ご、ご主人様の鑑賞用コレクションとして
        ……存分にお役立て下さい。
        き、今日は、ご挨拶代わりに……ゆ、有里の生まれたままの姿と……性
        感調査、そして……し、処女喪失ショーを、余すことなくお見せいたし
        ます。
        お見苦しいとは思いますが、最後までお付き合い下さいませ……」

        途中、ちょっと声が詰まり掛けたけど……まあ合格かな。
        さあもう一度。
        丁寧にお辞儀をして思いっきりのスマイル……

        良く頑張ったね……有里。

        ……でも、気付かれなかったかな?
        頭を下げた時、両目から水滴が落ちて床に染みが出来たことに……





その男 副島 























(八)


八月 十一日 月曜日 午後五時三十分  早野 有里
   


        それから一週間、幸いにして父の発作は起きなかった。

        わたしたち親子の愛に満ちた看病と、薬の効果かな?
        そして、その間にお母さんへの説得も行われた。
        お父さんの治療方法と医療費のことも、うまくごまかさないといけない
        からね。
        このあたりは、専門家である松山先生にお任せしたの。

        あの先生、作り話を信用させようとして嘘の申請書を片手に迷演技…
        …?!

        結局、お母さん。あっさり騙されちゃって……最後はボロボロと大粒の
        涙を流しての嬉し泣き。
        ついでに、わたしも思わずもらい泣き。

        あの時のお母さんの顔は今でも忘れられない。
        ……号泣してるのに輝いていた。

        話の内容は、臨床試験の患者になる条件としてお父さんの医療費は免除
        されるとか……

        でもそんなこと、どうでもいいじゃない。
        お母さんにはいつまでも笑っていて欲しいからね。

     

        「ねえ、お母さん。
        お父さんって……わたしたちのこと、どう思っているのかな……?」

        西日の差す病室でお父さんの寝顔を見ていたら、何かふっと聞きたくな
        って話し掛けていた。

        「うーん、そうねぇ。一言……ありがとうかな」

        少し考える素振りをみせて、母は意味深な答えをした。

        「……ありがとう。それだけ……?」

        不満そうな声を上げたわたしの横に母は並ぶと、父の頭を撫で始める。

        「照れ屋さんのお父さんに、それ以上の言葉は必要ないと思うわ」

        「……そうね。その方がお父さんらしいかも……」

        納得したようにうなづいて、わたしもお父さんの頭を撫でていた。



        この一週間……

        お父さんには申し訳ないけど……ある意味、わたしたち家族にとっては
        幸せな時間だった気がする。
        相変わらずお父さんの意識は戻らないし、お母さんと一緒に病院へ通っ
        ては病室で過ごすだけの毎日……

        でも、そんな日々が貴重で有意義な時間……
        今になってみればきっとそうかも……
        よく考えてみたら、こんなに長期間、家族3人が揃うことってなかった
        よね。

        「……有里。お母さん明日からパートの仕事に戻ろうと思うの。
        お父さんの具合も安定しているし、せっかく見付けた仕事だからね。
        ……あまり長いこと休んで、クビにでもなったら大変でしょ」

        お父さんの顔に日が差さないように、ブラインドを調節しながらお母さ
        んが話し掛けてきた。

        「お母さん、お仕事がんばってね。
        わたしも、そろそろ講義に出席しないと単位に響くから……明日から行
        こうかな。
        ……それに、並木のおじさんも首を長くして待っていそうだしね」

        「それじゃ有里、今晩は外食にでもしましょうか。
        ……明日からのふたりの頑張りに備えて、きょうはお母さんの奢り」

        「大丈夫? パート代って安いんでしょ。
        ……あっ、ちょっと待って……メールが入ったみたい」

        携帯がポケットの中で震えている。
        ほんの束の間のささやかな幸せを空気を読まない誰かがジャマをする。

        わたしは、湧き上がる不安を隠しながら画面を覗いた。


        『今夜8時、夜間受付まで。   副島』

        たった一行の何気ない文章なのに、胃がむかつき吐き気が襲う。

        いよいよ来たんだ……

        「どうしたの有里……?! おでこが汗でビッショリよ」

        「……ごめん、お母さん。
        ……わたしちょっと、用事が出来ちゃった。
        食事はまた今度ということで……今から友達のところに行ってくるね……」

        心配そうにする母にわたしが出来ることは、咄嗟に思い付いた嘘でごま
        かすことだけ……

        お母さん、嘘を付いて本当にごめんなさい。
        それと、有里は今日から悪い子になります。
        ……これも一緒に許してね。



        母と病院のロビーで別れた後、わたしは駅前の本屋さんを梯子しながら
        適当に時間を潰した。
        そして、じれったいほど進まない時計の針にイライラを募らせて、指定
        された時刻の10分前に夜間受け付けを訪れた。

        窓口で応対した職員さんは、愛想の悪い人だった。
        値踏みするようにわたしの顔を見て、一言「案内の者が来るまで、その
        辺で待っておけ」って……

        瞬間、ムカッてきたけど、ここはぐっと我慢我慢。
        わたしは言われた通り、壁に寄り添うようにして待っていた。

        しばらくして、通路の奥から男性がひとり歩いて来るのが見えた。
        その人は白衣を着た松山先生ではなく、スーツ姿のもっと大柄で体格も
        良くて、ただ怖い顔をした人。
        普段なら目を合わせるのも勇気がいるって感じ……

        おまけに受付で待っているわたしに、あごをしゃくるようにして付いて
        来いだもんね。
        ……受付の職員さん共々、失礼よね。

        それからわたしは結構歩かされた。
        薄暗い廊下を右に曲がり左に曲がり、途中で方角さえわからなくなって、
        ここはどこ? ってなってた。
        それなのに、大柄で怖い人はわたしを振り返ることなく歩き続けた。
        一言も話しかけてくれずに、まるでわたしの存在を否定するように……

        軽いウォーキング気分を味合わされて連れて来られたのは、彫刻が一杯
        施された両開きの扉の前だった。
        実用重視の建物に、なぜ? って思う扉だったけど、それのドアノブに
        付いているキーボードにも、なぜ? って感じ……

        今、例の怖い人が、ドアノブに向かってピッピッってなにかを打ち込ん
        でいる。
        ……暗証番号かな。
        わたしの方からは見えなかったけどね。

        扉がひらくと、わたしを置いて案内人さんは去って行った。
        結局彼は、一言もしゃべってくれなかった。

        さあ、今からわたしにとっての戦争ね……
        きみも応援してよ。
        ただし、気を利かせて目を瞑るのも忘れずにね。



        わたしは警戒するように部屋の中央までは進まず、扉の入り口付近から
        中を窺った。

        大きなガラスの嵌めこまれた木製のキャビネット。
        フレームが銀色に光り輝く天板が厚いガラスで出来たテーブル。
        それに向かい合うように配置された、大人4人が充分に座れる皮張りの
        ソファー。

        なんか、ゴージャスって感じ……
        思わず履いているジョギングシューズを脱ごうとしたくらいだから……

        ……なにか抜けていないかって……?

        ……わかっているわよ。
        わざと話題から外していただけ……

        わたしの視野に入っているのは、ゴージャスな調度品だけではなかった。
        おそらくこの部屋の主でメールの送り主であろう人は、わたしに背を向
        けてソファーに座っていた。

        「何を突っ立っているんです。さあ、こちらへどうぞ」

        「……失礼します。あの……えっ……?!」

        振り返って話し掛けてきた人を、わたしは知っている。
        でも、会話したこともないし誰かも知らないけど……
        確かにこの人に、自分は会っている。

        わたしは、その男と向かい合うようにソファーに座った。

        「あなたが早野有里さんですねぇ。これはこれは、写真以上にお美しい。
        あなたとは初対面なので、自己紹介といきますか……」

        「待って下さいッ……!」

        男の話を遮り疑問をぶつけた。

        「半月ほど前の、わたしに対するあなたの態度……
        あれは一体何の真似です? ……副島さん」

        忘れもしない。電車内での腹立たしい思い出……
        どうせメールを送ったのも、この男だろう。
        ここは強気に出て主導権を握る方が得策かも。

        「ああ、ばれていましたか。あの時は、あなたに会いたい一心であんな
        真似を……どうもすいません」

        副島はあっさりと頭を下げた。
        それも白々しい言い訳で……

        無言でいるわたしを了解したと受け取ったのか、澄ました表情でまた話
        し始めた。

        「それでは、改めて自己紹介をさせてもらいます。
        名前は副島徹也。
        今は、ある方の秘書をしております。
        あなたもお読みになったと思いますが、契約書に記されている管理人と
        は当面、私のこととお思いになって結構です。
        あとは年令とか趣味とか答えましょうか……? 
        なんなら、私のスリーサイズでも……」

        随分とふざけた人。
        それとも、わたしの緊張をほぐそうとしてくれているのかしら……?
        どちらにしろ、この前の態度と今の環境を考えると、うかつなことは出
        来そうにもないわね。

        わたしは冷静そうな表情を作って男を睨んだ。

        「意外と面白い方ですね。……でも、ジョークは下品で全然面白くない。
        あ、そうでした。ひとつだけ質問してもいいですか?」

        「はい、なんなりと……」

        「父の治療費を出してくれている方って、誰なんですか?」

        この前松山先生から聞きそびれた疑問に、この人答えてくれるかしら?

        「その事ですかぁ……まぁ、いいでしょう。
        えーっと、早野 有里さん。時田総合金融の社長と言えばお分かりにな
        りますか?」

        教えてもらえたのは簡潔明快な答え。

        「時田総合金融……?」

        わたしはオウム返しのように繰り返していた。

        頭の中に、駅前にある巨大なガラス張りのビルが思い浮かんだ。
        ……確か、あの建物が男の言った会社のはず。

        それは、例の駅前総合開発の旗振り役でこの地域で一番の巨大企業。
        お父さんのプロジェクトも、指揮していたのは時田金融だって……
        お母さんに聞いたことがある。
        そしてその社長……?!

        頭の中で嫌な相関図が出来あがる。

        と、いうことは……わたしが身体を差し出す相手は……お父さんの仕事
        の発注者ってこと……?!
        ……そんなことって……!

        「お分かりになりましたかぁ? ……因みに、社長の名前は時田謙一。
        あなたのお父さんにとっては命の恩人なのですから、お忘れなく……
        それでは、時間が惜しいので手短に後の説明をさせていただきます。
        ……これを御覧なさい」

        ……失敗。
        頭が混乱しているうちに話を進められてしまった。

        副島って人はテーブルに置いてあったリモコンを手にすると、正面にあ
        る大型の液晶モニターの電源を入れる。
        ……まさかテレビを見る訳じゃないよね。

        「よぉーく、見てて下さいよぉ」

        画面に見覚えのある顔が映っている?

        「えっ、わたし……?!」

        そう。映っていたのはわたし。それもかなりのアップで……
        そしてボタンを押すたびに画面も変化する。
        正面・真横・真上・足元から見上げるような角度に、わたしは思わず両
        足を閉じ合わせた。

        「驚きましたかぁ……? ここはちょっとしたスタジオになっていまし
        てねぇ。あなたの撮影会を開くには、もってこいの場所でしょ」

        「つまり……身体を……」

        「ええ、そうです。まあ、グラビアタレントのそれとは、訳が違います
        が……ククククッ……
        ところで、有里さん。行為の意味について知っていますか?」

        「意味って……? この場合、その……エッチをするってことでしょ!」

        わたしは、迷いながらも語尾を強めて言い放っていた。

        「はぁーい、正解。ただ補足させてもらいますと、あなたがエッチな行
        為をすることによってお父さんの命は保障されます。
        つまり、行為をした分だけ治療費が支払われるということです。
        それと内容も大事ですよぉ。
        なるべく男性を興奮させることが出来ればポイントが高いですからね。
        どうですぅ……? 面白いルールでしょ」

        「…… ……!!」

        あまりにものショックで声を出すのを忘れていた。

        ……それって、まさか……
        わたしの努力次第で、お父さんの寿命が決まるということ……?

        なにも言い返せないうちに、説明だけがどんどん進んでいく。

        「何も仰らないと言うことは理解いただけたとものと致します。
        ……それでは今日の予定を……

        一つ目は、服を全て脱いでもらい、その姿をカメラに収めます。
        二つ目は、あなたの性感をチェックします。
        三つ目は、私とセックスをしてもらいます。

        ここまでが今晩の予定です。
        因みに、何時になろうとこの予定通りに実行しますので悪しからず……
        ……おやぁ、顔色が優れないようですが、大丈夫ですかぁ……?」

        「はい……何ともありませんから……続けて下さい」

        わたしが想像していたものと全然違う。
        男の人と、その……セックスをするだけでも死ぬほどの覚悟がいるのに、
        それって……他にも色々なことをさせられるってこと?

        考えただけで吐き気がしてきた。
        こんなことなら胃薬を持ってくれば良かったかな。




恥辱の契約























(七)


八月 四日 月曜日 午後九時三十分  早野 有里
  


        「先生、話ってなんですか……?」

        20分後、わたしは先生の案内である事務室に通されていた。
        ふたりの付き添いの許可をもらった後、わたしにだけ大切な話があると
        言われた時には多少警戒心が湧いたけど、父のことがあるから断るわけ
        にもいかなかった。

        場所はどこって……?

        ちょっと分からないわ。

        診察室からは結構歩かされたけど、通路も暗くて何度も角を曲がったか
        ら……ここがどこなのかは、さっぱり……

        ただこの部屋、薄暗くて狭くて陰鬱な雰囲気がする。
        壁には何カ所も小さなカーテンがしてあるし、その先に何があるのって
        感じがして、ちょっと不気味。

        今は二人っきりかって……?

        あら、心配してくれるの……?
        ……大丈夫よ。いざとなったら自慢のソプラノボイスで大声をあげるか
        ら、安心して。

        あ、先生が来たわ。……さあ、何の話かしら。



        「……これを見て下さい」

        先生は、テーブルの上に1冊のファイルをひらいて、わたしの前に差し
        だした。

        「これは……?!」

        写真・図解・詳しくて分かりやすい説明文。
        そこに記されているのは、父と良く似た病状の実例報告だった。
        そして、つぎのページには具体的な治療法と薬の紹介まで……

        「先生、この資料は……?!」

        「……そうです。ここに掲載されている治療を行えば、早野さんの発作
        は止められると思います。
        ……ただ、病状が悪化しているので症状自体の完治は難しいと思います
        が……」

        「それでは、なぜあの時……」

        続きの言葉を口に出そうとしたけど出来なかった。
        ……なぜなら、わたしの目は薬の単価に釘付けになったから。

        一錠、10万円ッ!!

        説明書きには、1日1錠って書いてあるから……えーっと、1か月で
        300万円ッ!!

        ……これって、保健効くのかな?
        ……だめ、保険適用外って書いてある。

        わたしは、すがるような目で先生を見つめた。

        「お父さんを助けたいですか?」

        大きくうなづく。

        「本当にそう思っていますか?」

        また大きくうなづく。

        「そのためなら、あなたはどんなことでも出来ますか?」

        うなづこうとして、首が止まる。……ちょっと待って、何か変……?

        「それは、どういうことですか?」

        わたしはゴクリと唾を飲み込み、もう一度先生の顔を見た。

        「いえ、言葉のとおりです。あなたがお父さんのために私たちの要求に
        従ってくれるのなら、この薬代プラス治療費も含めて用立てても良いと
        言っているのです」

        この人……なにを言っているの?
        わたしに……何をさせようと言うの?

        意味が分からず押し黙っているわたしに、先生は具体的な説明を始めた。

        「……実は、ある方に頼まれましてね。
        その方が仰るには、あなたの身体を自由に出来るのなら、お金を出して
        も構わない。それも、お父さんが治療を受けている間は何年でも面倒を
        みることを約束する。
        更に、今後も大学に通うことや、普段の生活はある程度認めようと……
        ただ額が額ですから、1回や2回という訳には参りません。
        まあ数年、あるいは10年くらいは耐えることになると思いますが……
        どうされます?
        私個人としては、良い条件だと思いますが……」

        「……?!」

        わたしの身体……それが何を意味するのか分かっている。
        世の中には、お金でそういう行為をする人たちがいることも知っている。

        ……でも、わたしには関係ない世界だと思っていた。
        少なくともこの部屋に入るまでは……

        「……わたしは……何をすればいいの……?」

        無意識に口がひらいて、慌てて閉じようとしたけど遅かった。

        「その言葉……ご理解してくれたものと判断してよろしいですね」

        また無意識に、今度はうなづいていた。

        「簡単なことです。あなたには、指定された日にこの部屋で男の相手を
        してもらいます。
        そして、それを撮影しあの方にコレクションとして提供する。
        指示を与える者の言葉通りに行為をしさえすれば、何も難しいことはあ
        りません」

        男の相手・撮影・行為……

        抽象的な単語を、わたしの頭が勝手な映像に置き換える。
        よくドラマなんかで身体を張って愛する人を守るシーンがあるけど、今
        のわたしもそんな感じかな。

        でも、ちょっと頼り無いかも……

        「それではあなたの気が変わらないうちに、この契約書にサインをお願
        い出来ますか?」

        わたしは、父を守るスーパーヒーローに成りきったつもりでペンを握っ
        た。



        「……これで契約完了です」

        先生の言葉に、ハッとして書類に目を落とした。

        わたし……勢いでサインしちゃった。
        運命の分かれ道って、もっと深刻なものと思っていたけど、案外簡単に
        決まっちゃったね。

        ……でも、これで終わりではなかった。
        先生はわたしの調査書を作成すると言って、書類を1枚テーブルに置い
        た。

        「私の質問に正直に答えて下さい」

        それだけ言うと彼は色々な事を聞き始めた。

        最初は、極当たり前の基本的な事項……
        生年月日に始まって、身長・体重・血液型。
        ……それにちょっと顔が赤くなったけど、スリーサイズ、妊娠している
        かまで……

        このぐらいなら、覚悟していたからある程度仕方ないと思っていた。

        ……でも、次第に質問の中身が陰湿で卑猥なものに変化していった。
        初潮はいつきたとか……陰毛が生え始めたのは、いつ頃かとか……

        わたし、つい言葉を詰まらせちゃった。

        だってこれは、女の子にとって他の人には隠しておきたい大切な思い出
        なんだよ。
        ……分かるでしょ、この気持。

        でもね、結局答えちゃった。だって契約したもんね。

        因みに、初潮は中学生になった頃……
        これは平均的だと思うよ。

        ……後、下の毛が生え始めたのは中学2年生になってから。
        その頃からわたしぐんぐん背が伸び始めて、気が付けばお尻もふっくら
        してきて、ある日お風呂に入っていて気が付いたの。
        身体を洗っていたら……その、指が下腹に触れて何か違和感があったか
        ら。
        それで良く見てみたら、もやもやっと生えてたわけ……

        ……ところで、松山先生の質問まだ終わらないね。

        「あなたは、男性経験がありますか……?」

        やっぱり、まだ終わらない。

        「処女かと聞いているのですッ!」

        随分とストレートな聞き方……
        当たり前でしょ! と言う言葉をぐっと堪えて、素直に答えた。

        「はい、処女です」と、目の周りが熱くなるのを感じたけど具体名で言
        っておいた。
        もう一度は勘弁して欲しいから……

        「前回の生理は、いつでしたか……?」

        「はい、10日ほど前だったと思います」

        これも、なんでそんなことって言い返そうとして止めた。

        ……どうせ、わたしは男の人に好きにされるんだ。
        勝手に妊娠してもらったら困るからだと思うことにしたの。

        ……あれ? 先生の目、いやらしく感じるけど気のせいかな。

        わたしは、初めて会った時の全身を舐め回す視線を思い出して、肌が総
        毛立つ気がした。

        「次の質問は答えにくいと思いますが、正直に答えなさい。
        あなたは、オナニーをしますか? 尚、している場合は週何日していま
        すか?」

        今オナニーって言わなかった?
        それって、あれだよね、自分で慰めるってやつ。

        「…… ……」

        言えない。そんなこと絶対無理ッ!

        「どうしました……? やっぱり恥ずかしいですか?」

        さっきの視線、間違いじゃなかった。
        この先生、わたしの恥ずかしがる姿を楽しんでいるんだ。

        悔しいッ!……悔しいけど答えなくちゃ……いけないよね。

        「……ッ。あります……」

        わたしは答えた。でも、わたしにも聞こえなかった。

        「声が小さいッ! もっとはっきりとッ!」

        「あります。オナニーしたことありますッ!」

        今度は、自分の耳にもしっかり届いた。

        そうよ。それがどうしたと言うのよ。
        ……女の子だってすることくらい、あるわよッ!

        「ほう、あるんですね。で、週に何日位……? まさか、毎日とか……
        クックックックッ……」

        この人って……!!
        思い尽くだけの悪口を、声に出さずに叫んでから言ってあげた。

        「そんなわけ、ありません。……月に1回位です」

        「本当ですか……?」

        「本当です。信じて下さい……」

        泣かされそうになった。
        ……でも、泣かなかったし涙も滲ませなかった。

        こんな男を喜ばせて堪るもんですかッ!



        ごめんね。待たせちゃって……

        契約の手続きが全部終わっているのに、あの男しつこくて……何か飲ま
        ないかって言うんだよ。
        わたし、母が待っていますッと言って、部屋を出てきちゃった。

        きみにも心配かけたわね。

        ……ごめんなさい。そして、ありがとう。
        ……それと、きみには隠し事をしたくないから……これ読んでくれる?



          契約書

          私、早野有里は以下の行為に従う事を約束いたします。

        ● 私の時間・行動は、全て定められた管理者の管轄の下に置かれるもの
          とする。

        ● 管理者が、私の身体をどのように扱っても抵抗はいたしません。
 
        ● 私は、管理者のどのような性的行為にも全て従います。

        ● 私は、この契約内容を他者には一切公表いたしません。
 
          以上、もし契約が守れない場合は、どのような措置をとられても異
          議申し立てはいたしません。


          署名  早野 有里



        ちょっと文字が乱れているけど、署名もあるでしょ。

        これで、わたしは鎖に繋がれた奴隷と一緒。
        ……それもエッチな奴隷。

        そうだ。初めてきみに会った時に、わたしのスリーサイズ聞いたよね。
        あの時はちょっと恥ずかしかったけど教えてあげる。

        バスト78、ウエスト51、ヒップ82……
        ついでに体重は、51キロ。

        悪くないスタイルでしょ。……ただし、胸のことは無視してね。

        ……それと……これは、わたしの独り言だと思って聞いてね。
        きみにだけの、わたしからの告白だよ。

        わたしのオナニー初体験は高校一年生のとき……
        あれは体育祭が終わった頃だったから、確か10月の始めくらいかな。

        たまたま友達がこっそり持ってきたいけない漫画を、昼休みに友達と回
        し読みしていて……
        その、大人の世界に興味を持ったの……

        その夜、わたしはベッドに入ったけどなかなか寝付けなかった。
        生理が終わった直後でちょっとイライラして、おまけに昼間の光景が頭
        に浮かんで……
        ……気が付けばわたしの指は、パジャマのズボンの上から股のつけ根を
        スリスリと……

        そうしたら、あそこがキューッという感じがして、ものすごく切ない気
        分になっちゃった。
        だってこんな感覚、今まで感じたことがなかったから……

        わたし、何が起きてるのか分からなくて、そうしたらものすごく怖くな
        ってきて……
        結局そのまま寝ちゃった。

        今思えば可愛いやり方だよね。

        ……あ、勘違いしないでよ。
        今でもわたしは指だけだからね。

        エッチな道具も持っていないし、使ったこともないんだから……
        本当よ!……信じてよね。

        まあ、あの頃と違って下は脱いでするけどね。
        だって、いやらしい液でパジャマやパンツ、汚したくないでしょ。

        はい、独り言はこれでおしまい。
        どう? わたしの秘密の思い出……

        なぜ、こんなこと話したかって……?

        本当はね……怖いんだ。これからのこと……
        だから、きみに練習代になってもらったの。
        これとは比較にならないくらい恥ずかしいことをさせられそうだから……

        ……あれ、ちょっと怒った?

        許してね。これからも、きみとは良いコンビでやっていけそうなんだか
        ら……





父 危篤























(六)


八月 四日 月曜日 午後七時  早野 有里
  


        それから幾日か経ち、季節は一番夏に相応しい8月に入っていた。

        連日の猛暑にわたしの体力も低下、自慢の食欲も少々ダウン。
        ……それに比べてお母さん、身体の方は元気だよね。
        慣れないパート勤めをしながら、時間の許す限りお父さんの付き添い、
        それにわたしの食事に家事全般。
        ……おまけに全然痩せてこない。

        ある意味すごいと思う。
        わたしも、見習いたいような、そうでないような……



        そんなある日のこと……
        その日は、真夏にしては珍しく朝から憂うつな雨が降っていた。

        「おじさん、今日はお客さん少ないね」

        わたしはテーブルを拭きながら窓の外を見ていた。
        どんよりとした雨雲のせいで店の中まで暗い。

        「仕方ないさ。たまには、こういう日もあるってことよ……」

        「あら、随分と余裕ね。おじさん」

        やっぱり、この人は偉いな。
        ……わたしにはこんな余裕全然ない。ちょっと見習おうかな。

        結局その日は、季節外れの雨にそば屋並木はノックダウンさせられた。

        「有里ちゃーん。そろそろ店を閉めるから、暖簾を頼むよー」

        調理場から、多少落ち込んだおじさんの声が聞こえた。

        わたしは少し低めのトーンで返事をすると、磨りガラスの引き戸に指を
        かける。

        トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル……

        その時お店の電話が、空気の読めない困ったちゃんみたいに鳴りだした。

        「いいよ、おじさん。わたしが取るわ」

        電話に出ようとしたおじさんを制して、わたしは受話器を耳にあてた。

        「はい、そば屋並木で……あっ、お母さん? どうしたの……?」

        「有里ッ! お父さんが……!」

        「お母さん、しっかりしてッ! ……何があったの……?」

        「今、病院から連絡があって……お父さんが発作を起こしたって……
        それでお母さん、今からお父さんの所に行くから……
        そのことを有里にも知らせておこうと思って……」

        「うん、分かった。わたしも直ぐ行くからね。
        ……それまで、お父さんのこと頼むねッ!」

        慌ただしく受話器を置くと、心配そうに顔を覗かせたおじさんに事情を
        話した。

        「そう言う事だから……ごめんね、おじさん……」

        「店のことはいいから、早く行ってやりな。
        タクシー代ならおじさんが出してやる。さっ早くッ!」

        「……ありがとう。それじゃ行くね」

        エプロンをむしり取るように外すと、表へ飛び出し大通りへ急いだ。
        そして、通り掛ったタクシーに乗り込むと父の待つ総合病院の名を告げ
        る。

        わたしは祈るようにつぶやいていた。

        「お願い。がんばって……お父さん……」



        わたしが病院に駆け付けた時には、父は治療の真っ最中だった。

        一階にある集中治療室の前で、母は頭を抱え込むようにして椅子に座っ
        ている。
        わたしは恐る恐る声を掛けた。

        「お母さん……お父さんは……?」

        「あっ、有里……来てくれたんだね」

        母の表情に最悪の結果が訪れていないことを確認すると、少し安心する。

        「うん。で、お父さんの具合は……?」

        「それが……お母さんも今着いたところなの。
        病院の話によるとお父さん、急に発作を起こしたって……
        それで家に連絡が入って、あなたに伝えた後、慌てて病院に駆け付けた
        ところなのよ。……今、先生が診察しているところ」

        髪が乱れたままの母を見れば、事態の深刻さは分かるつもり。
        ……でも、悪い夢を見ているみたい。

        わたしは、これは現実なんだと自分に言い聞かせながら、治療を受ける
        父の姿をガラス越しに追った。

        ……30分……1時間……
        ……やっと治療室のドアがひらく。

        「先生ッ、主人は……」

        先に席を立ち上がったのはお母さんの方だったけど、後の言葉が出てこ
        ない。

        父の担当医である松山先生は、小さくうなづくとわたしたちふたりを手
        招きした。

        「どうぞ、こちらへ……」

        案内されたのは、父がいる集中治療室に隣接する診察室。

        「先生……父は助かるんですか……?」

        わたしは、口を閉ざした母に代わってストレートに聞いた。
        そして返ってくる応えに恐れた。

        「……命は取り留めました。ただし、非常に危険な状況です」

        それじゃあ、どっちなの?
        覚悟していたものと微妙に違う回答に戸惑いがでる。

        「後は、早野さんの気力しだいと言ったところでしょうか」

        「気力ですか……」

        「はい、そうです。それと、持ち直したとしても、また発作が起きる可
        能性もあるということをお忘れなく」

        わたしは人ごとのように淡々と説明する先生に、素直にお母さんと一緒
        で良かったと思った。
        ひとりだと、もっと失礼な言い方をしていたかも分からないし、自分は
        この人が苦手だから……

        「それでは、発作が起きなければ父は助かると……」

        「……ええ。ただし……意識が戻るかまでは分かりません」

        歯切れが悪くて、返ってくる応えはこの後も悲観なものばかり……
        わたしは落ち込む母を抱きかかえるようにして診察室を後にし、集中治
        療室の前に戻って来た。

        「お母さん、無理かもしれないけど元気だして……」

        「…… ……」

        「ほら、先生も仰ってたでしょ。発作さえ起きなければ大丈夫だって……」

        「でもね、有里……」

        「……それ以上、言わないでよ。わたしにも、そのくらい分かっている
        んだから……」

        「ごめんね、有里……お母さん、頼り無くて……」

        「もう、また泣く。それより今夜はどうするの? 
        先生に頼めば、一晩泊らせてくれると思うけど……ちょっと聞いてくるね」

        これ以上落ち込むお母さんなんて見ていられない。
        わたしはその場から逃げるようにして、再び診察室に向かった。





謎の男と舞衣 有里の苦悩























(五)


七月 二十五日 金曜日 午後九時  早野 有里
  


        「♪♪……2番ホームに下り○○行き、快速電車が入ります……」

        駅のホームにアナウンスが響き、銀色の車体が金属をこするブレーキ音
        を立てて滑り込んでくる。
        わたしは列の後方からガラス越しの車内を覗いてみた。

        ……まあ、いつもと同じかな。

        程程の込み具合を確認しながら、前の乗客と隙間を開けずに車内に入る。

        いつもの時間に、いつもの電車……
        それに、いつもの場所はと……空いてる。

        ホーム側から入って向かい側の扉横のスペースが、わたしのお気に入り
        の場所。
        目的地までの約30分間、線路側にあたるこの扉がひらくことはない。

        ……つまり、ここは私だけの快適な空間ってこと。
        もちろん座席はないけどね……

        ほんのわずかな時間に多くの乗降客を入れ替え、エアー音を鳴らしなが
        ら扉が締まる。
        そして電車は、低いモーター音を響かせながらゆっくりと滑るように動
        き出した。

        わたしは車内が落ち着くのを待ってから、バッグに入れてあるヘッドフ
        ォンを取り出しお気に入りの曲を聴き始めた。
        身体を壁に預けて瞳を閉じ、誰にも邪魔されずに好きな音楽を聴く。

        そう。わたしにとって一番リラックス出来るのはこの時間だったりする。
        なんだかんだ言っても最近の生活リズムって、結構ストレスが溜まるの
        よね。

        ……ちょっと、きみ。
        その目は何よぉっ。
        能天気なわたしにストレスが存在するのかって……?!

        ……バカにしないでよ。
        こう見えても心配事だらけなんだから……

        朝のご飯はお代わりすればよかったとか……
        お昼は何を食べようとか……
        夕食のおかずはなにかなとか……後は、えーっと……?

        もう、なにを言わせるのよ……!



        今、どのあたりかな……?

        わたしはヘッドフォンを付けたまま、ガラス窓の外を勢いよく流れる景
        色を追った。

        駅を出発して20分位経ったかな。ちょうど車両は隣町との境界を流れ
        る川を渡るところだった。
        鉄橋を通過しているのか、線路に響く車輪の音が大きく反響している。

        ここを越えれば、後10分位で次の駅に到着する。
        もうすぐリラックスタイムともお別れね。

        わたしは窓から目をそらすと何気なく車内を見渡した。

        ……んっ……?
        ……何か、感じる……視線……?
        ……誰かがこっちを見ている気がする。

        もう一度、今度は慎重に視線の主を探ってみる。

        …… ……
        …… ……!
        ……いた! あの人だ……!

        わたしから5メートルくらい離れた場所で、吊革にぶら下がっている。
        最初は偶然かなと思ったけど、いつまでも目をそらす気配がない。

        ここは景色でも眺める振りをしながら、確認するしか方法はなさそうね。
        黒目だけを横にスライドさせて、視野の端に再度、主を捉える。

        ……?
        全く見覚えがない。誰なの……?
        ……まさか、女の子の敵……痴漢?

        それにしては距離が離れすぎている。

        ……もしかして美少女のわたしに好意を持っているとか……?
        まあ、それは充分に考えられるけど……

        どっちにしても、知らない人から一方的に視線を投げ掛けられるのって
        いい気がしないね。
        ここは反撃するしかなさそう。

        わたしは、見覚えのない人にちょっと厳しい視線を送り返した。
        これってわたしの欠点かもしれないけど、昔から負けず嫌いなんだよね。

        身長は……180センチ位あるかな。
        少し痩せ気味で、身体の線も細い感じ。
        ……肉体的な職業の人というよりホワイトカラー系……?

        顔は中性的な美男子……? 
        ……というか、髪型・服装も含めて典型的なホストっぽい人……?

        まあ、そういう世界に知り合いはいないけど、テレビではそんな人たち
        を何度も見たことがある。

        ホスト顔の人は、わたしが睨み返しているのに気付いたのか……?!

        ……!!
        ……えっ、視線を外してくれないの?
        ……全くどういうつもりッ!

        普通こういう場面って、軽く会釈して視線をそらすのが礼儀ってものじ
        ゃないの……?
        それなのに、逆に目だけで不気味に笑い掛けてきた。

        ……気持ち悪い……!
        なんなの、この人……!?
        かなり悔しいけど……こういう時は無視するのが一番かな。

        わたしは真っ直ぐに前を向いて男の視線をやり過ごすことにした。
        ……さりげなく横目で男の姿を追いながら……

        後できることは……?
        ……!
        ……ちょっと怖い表情をつくって、駅に着くのをひたすら待つ……それ
        だけ。

        5分、6分、7分……

        こういう時間って、どうして遅く感じるんだろう……?
        漫画を読んでいるときは、時間なんてあっという間に過ぎているのに……

        ……8分、9分、10分!

        やっとアナウンスが流れた。
        ……電車が減速する。

        わたしは多少強引にドアの前に陣取ると、恐る恐る後ろを振り返った。

        ……?!……いない……?

        ホスト顔の男は気付かないうちに消えていた。

        いったいなんだったのよッ……!
        わたしのリラックスタイムを返してよッ……!

        わたしは朝から不愉快な気分で改札口を後にした。
        歩きながら何度か後ろを振り返ったけど、あの男が付いて来ることは結
        局なかった。



        駅から歩いて10分位、歴史の重さを感じる古びたレンガ造りの正門が
        見えてくる。

        ここはどこかって……?

        ……見たらわかるでしょ。大学よッ!

        今、機嫌が悪いの。
        ……これ以上話しかけないでよ。

        「ボーン、ボーン、ボーン、ボーン……」

        気分をさらに害する音色が頭の上で鳴り響いてくる。

        「うるさいッ……!」わたしはぶすっとつぶいて、校舎中央に設置され
        ている時計を見上げた。

        「……まだ、30分もある」

        講義が始まるまでどうしようかな?
        同じような暇な仲間がいればいいけど……誰もいない。

        仕方ない……講義室で待つとしますか。
        まあ、あそこなら話し相手になりそうなわたしの同族もいるかもしれな
        いし……

        時間を潰すように、わたしは講義室のある教育科の校舎に向かった。

        あら、校舎の入り口に誰か立っている。
        さっそく同族が見つかった。

        わたしは合図を送るように手を上げかけて……その手を下ろした。

        ……なぜかって?

        ……簡単な話。
        わたしは、その子が大嫌いだから……

        「有里……おはよう」

        「…… ……」

        「あのね、わたし……あなたにお話しがあるの……」

        「…… ……」

        「ねえ……お願い……」

        しつこい子ッ!

        わたしは振り返ると、さっきまでのうっ憤をまとめて晴らすようにすご
        い剣幕で睨みつけて、そして言ってあげた。

        「気が付かなくて、ごめんねぇ……元。友人の舞衣さんッ!!」

        彼女の身体は固まり、強張った顔からは血の気が引いている。
        わたしは、残酷そうな作り笑いを浮かべて講義室に向かった。

        これでいいのよ。
        誰かが囁く。

        本当に、これでいいの?
        他の誰かが囁く。

        耳の中で、今自分が口にした残酷なフレーズが何度も何度もリピートさ
        れる。

        (元。友人の舞衣さんッ!!)

        わたしの背後で、誰かが嗚咽を漏らしていた。



        どう、きみも驚いたでしょ?

        これがわたしの本性。
        本当は性格のねじ曲がった嫌な女の子。

        そうだ。嫌な気分のついでに、この前話さなかった裏の話もきみに教え
        てあげる。
        ちょっと、こっちに来て。

        えーっと、前に話したように、会社の中には父を快く思わない人たちが
        いるって言ったよね。
        この話をわたしと母が知ったのは、今から1カ月くらい前のことなんだ。

        父の病室を、30歳位の真面目そうな男の人がお見舞いに来てくれたこ
        とがあったの。
        その人は父の元部下だと言って、綺麗な花束と父を慕う人達の寄せ書き
        の色紙をわざわざ持って来てくれた。

        わたしとお母さん。思わず泣いちゃった。

        だってそうでしょ。
        今でも、お父さんはみんなに慕われている……そう思うと嬉しくて……

        そんな彼が、帰り際にある裏話をそっと教えてくれたの。
        お父さんは罠に嵌められたと……!

        話しの内容はこんな感じ。

        父の失脚を願う人たちの中には、経営者の親族の人もいたらしいの。
        しかもその人。お父さんに役職で抜かされちゃって、ひどく恨んでいた
        らしい。
        で結局、父を罠に嵌めようとある卑劣な作戦を思い付いたの。

        それは、駅前開発のプロジェクトでリーダーの役を引き受けさせること。

        彼は考えたわ。これで父を失脚させられると……
        それくらい難しい事業内容だったらしいわ。

        でも、わたしのお父さんは負けなかった。
        一生懸命に努力をして、あと一歩のところまで辿り着いたの。

        結局、あの男の作戦は見事に失敗。
        それどころか益々出世に差がつきかねない。

        焦った彼は、父が会社のお金を流用していると言うとんでもない噂を流
        し始めた。
        そして、嘘の書類まで偽装して会社に提出したの。

        とんでもない卑劣で最低な男……

        そうだ、あなたにも教えてあげる。
        わたしのお父さんをこんな目に合わせた憎い男のこと……

        名前は吉竹亘。

        この人、父を追い落とした後プロジェクトのリーダーを引き継いだの。
        当然、全ての成果は独り占め……

        父の部下だった人の話によると、次期社長の噂があるんだって……

        可哀そうだね、お父さん。あんなに頑張ったのに……
        わたし、生まれて初めて神様を恨んだ。

        でも、悲しいことはそれだけでは済まなかった。
        わたしは大切な親友さえ失ったんだから……

        さっき、きみも会ったでしょ。

        あの子の名前は、吉竹舞衣。
        ……そう、あの男の娘。

        性格は、わたしと違って控えめで上品で、誰とでも分け隔てなく付きあ
        うことの出来る女の子。
        これからも、親友として付き合っていけると思っていた。

        因みに、高校・大学も彼女と一緒……
        お互い気が合ったし、将来は教師になる夢があったからね。
        それなのに、あの男は父だけでなくわたしの親友まで奪っていった。

        ……許せなかった。
        あの男は当然……娘の舞衣も……

        あの人の子供という理由だけで恨むのは筋違いかもしれないけど、やっ
        ぱり我慢できない。

        ねえ、きみはどう思う?

        ……もう仲直りなんて……無理だよね。





父の思い出 迫りくる恐怖























(四)


七月 十八日 金曜日 午後十時四十分  早野 有里
  


        きみも、なかなか気がきくね。
        親子水入らずの会話にはちゃんと席を外してくれるとは、感心感心。

        今、食事が終わって時間があるから、ここでお父さんのことを話してあ
        げるね。



        父の名前は、勇。
        この街の不動産会社に勤めていたんだ。

        性格は、一言で説明すると真面目一筋。
        仕事は当然、家庭内のことから近所付き合いまで一切手抜きなし。
        どちらかと言うと小柄で華奢な体型で、若い頃は身体も弱かったらしい
        けど、父ほど一生懸命という言葉の似合う人はいなかった。

        だからと言って、昔の猛烈社員を想像したりしないでね。
        父の生き方の中心には、常にわたし達家族だったんだから。

        わたしとお父さんとの思い出は大切な宝物。
        ただ多すぎて、ここでは話せない。
        それはまた時間ができた時にでも……

        今は、もっと大切なことを説明するね。
        そう、この物語の本質部分に関わる重大な話……

        お父さんって、さっき話したような性格でしょ。
        おまけに部下想いで、会社の偉い人の評価も高かったからどんどん出世
        していったの。

        わたしはあまりうれしくなかったけどね。
        だって、お父さんと一緒にいる時間が減っていくんだもん。

        でも、お父さん。ちょっと頑張り過ぎたのかもしれない。
        社内には、そんな父を妬む人達もいたみたいだから……


        そして、今から2年前。
        きみも覚えているでしょ……? 駅前の再開発が突然始まったことを……

        古い街並みを更地にしてオフィスビルや高層マンションを建てて、『活力
        ある街づくり』がキャッチフレーズのあれ。

        実は、お父さんの会社も参加していたんだ。
        そしてこのプロジェクトを任されたのが、わたしの父だったの。
        後からお母さんに聞いた話だけど、お父さん張りきって仕事に打ち込ん
        でいたみたい。

        ……でも、現実は甘くなかった。

        わたしも思うことがあるけど、このあたりの人たちって結構保守的で頑
        固なのよね。
        江戸時代から続く古い街だからかな。

        そのせいか、土地の取得交渉も相当大変だったみたい。
        それでもお父さん、文字通り必死で頑張ったの。

        あの頃の父の姿は、わたしもよく覚えている。
        朝から夜遅くまで土日の休みも関係なしに、ひたすら仕事、仕事、仕事。
        わたしとお母さんが身体を心配するくらい、仕事、仕事、仕事。

        でもそんな父の努力が実を結んだのか、難しい交渉も次第に成果が出始
        めて、2か月くらい前にプロジェクトは無事に成功を収めることができ
        たの。

        これのどこが、重大な話って……?
        きみ……ちょっと、せっかちだよ。

        わたしのベッドに腰掛けていいから、もう少しの間付き合ってね。
        あっ、勝手に寝転ばないでよ。
        パジャマにも触らないッ!

        えーっと、どこまで話したかな。
        うーん、そうだった。プロジェクトが成功したところまでだったね。


        そんな輝かしい成果を収めたのに、その晴れ舞台に父の姿はなかったの。
        理由は、突然の解雇。

        ……お父さん、会社をクビにされちゃった。

        ……なぜって?
        それは、今は言えない。

        ただ、お父さんは決して悪くない。
        それは、わたしとお母さんが保証する。
        悪いのは……ううん、なんでもない。

        それよりも、もっと不幸なことがわたしたち家族を襲ったの。

        ……あれは、父が会社を去って1週間ほど経ったある日。

        お父さん、突然頭が痛いと言いだして、この街の総合病院に救急車で運
        ばれたの。
        そして診断の結果、命にかかわる病気だということが判明して、その日
        の内に手術、入院することに……

        幸い、手術は一応成功。
        ただ、病気の後遺症のせいか意識が戻らなかった。
        目は時々ひらくんだけど、わたしたち家族の呼びかけにも全く反応なし。

        それにお医者様の話だと、この病気はまた再発する可能性があるって……
        その時は命の危険性が高いって教えてくれた。

        わたし、どうしていいか分からなくなって思わず泣いて、横を見るとお
        母さんも泣いてた。
        情けないよね。わたしが出来ることって悲しむだけだなんて……

        そんなわたしの心に、現実が喝を入れた。

        父の病状だけではない。今後の高額な治療費、家族が生きていくための
        収入……

        お母さんは、近くのスーパーでパートのレジ打ちの仕事をみつけた。
        わたしも大学を中退して働くと言ったんだけど、それはお母さんに止め
        られた。

        あの時はすごく反発したけど、今想えば娘にまで迷惑を掛けたくないと
        いう、親心だったのかもしれない。

        ……でもね。親子でそんな他人行儀なことって、いやだよね。
        それでわたしも、自分なりに考えて今のアルバイトを始めたんだ。

        ……これで大体分かったでしょ。
        わたしたち家族のこと……

        ただ、これは表の話……

        裏に潜む、悲しくて辛い現実は今日はちょっと……
        それにわたし眠くなってきたから、もう寝るね。
        おやすみなさい……



             七月 二十一日 月曜日 午後二時   副島 徹也  


        「副島様、このベッドはどこに配置します……?」

        「ああ、それは奥の部屋に……そう、東側の壁いっぱいに……」

        使われなくなって久しい薬品倉庫だった部屋の改装も、順調に進んでい
        る。

        私は内装のチェックを済ませると、壁糊の匂いから逃れるようにドアを
        開けた。

        目の前の廊下を白衣姿の男が通り過ぎていく。

        ……そう、ここは病院。

        私が立っているのは、玄関ロビーから続く長い通路から角を2回ほど曲
        がった所にある、あまり人目につかない元薬品倉庫の前。
        現在、取り掛かっているのは、使われなくなった部屋を間取りごと改修
        し私の仕事部屋にすること。
        簡易応接室・バス・トイレに割り当てた半分の面積をあてがい、残り半
        分を私の趣向に合わせた部屋に改築させている。

        あなたにも、少し紹介しましょうか……?

        お転婆娘の相手ばかりしていては、お疲れになるでしょう。
        こういう息抜きも大事ですよ。

        ええ、壁はコンクリートの打ち放し。
        床はリノリウム。
        それに簡易ベッドと小道具を入れるボックス。

        随分と殺風景に思うかもしれませんが、装飾も施してありますよ。

        壁の上端から皮枷の付いた鎖が2本ぶら下がっているのが分かりますか。
        そして、壁の下からも同じく2本。
        合計4本の皮枷付きの鎖。

        これで何をするのか、感の良いあなたならご理解頂けると思いますが……

        因みに、同じ物をベッドにも取り付ける予定です。
        ただし、こちらはベッドの四隅ということになります。

        この後は天井に滑車なども欲しいところですね。

        ……それとですね。もうお気づきかと思いますが、部屋中に複数の監視
        カメラを設置してあります。
        もちろん、応接室にバス・トイレにも……

        たかが監視カメラと思わないで下さい。
        画質はそこらにある市販のビデオカメラには負けません。
        きっと迫力のある映像を残してくれることでしょう。

        それとセキュリティも万全です。
        壁は全て防音。1か所だけの出入り口は暗証番号付きの電子ロック。

        どうですか、完璧でしょ。
        ……後は小娘が来るのを待つだけです。

        楽しみですね。あなたもそう思うでしょ。



有里って、はしたないの?























(三)


七月 十八日 金曜日 午後九時四十五分  早野 有里
   


        「あー、サッパリした」

        汗でべたついた肌がお風呂で清められたみたいで、心まですっきりする。
        特に、お風呂上がりの桜色の肌から立ち上るほのかな石鹸の香りはなん
        とも言えない。
        我ながらうっとりとしてしまう。

        なんだか今日は開放的な気分……

        わたしは素肌に下だけ身に着けると、その上からバスタオルを巻いてリ
        ビングに入った。

        「もう、有里ッ! また、そんな恰好で……年頃の娘がすることじゃな
        いわよ」

        案の定、怒られた。

        「大丈夫よ、お母さん。誰も見てるわけじゃないし……
        それに、ほら。下はちゃんと穿いてるんだし」

        わたしは、わざとタオルの裾をひらいて腿のつけ根まで露出させた。

        「やめなさいッ! もう、あなたって子は……
        ほら、晩御飯ができているから、早く服を着なさい」

        「はぁーい」

        今日のわたしは何か変……

        勘違いしないでよ。
        普段はもっとお淑やかなんだから……

        服装だって、よく友達に地味だと言われる。
        夏の暑い季節でも肌の露出はなるべく控えるように、長袖のTシャツに
        ジーンズが定番のスタイル。
        ミニスカートやちょっと露出っぽい服も持ってはいるけど、身に着ける
        ことはほとんどない。

        以外でしょ。
        明るくて身体を動かすのが大好きで、そういう女の子は大胆な衣装も平
        気って……
        みんなはそう思うかもしれないけど、わたしは全然平気じゃない。

        どうしてかな……? 

        肌を見せるのにちょっと抵抗があって……
        ……別に羞恥心が異常に強いってわけじゃないよ。

        ただ、好きな人ができたら、わたしも変わるかもしれない。
        それだけに今日は特別だと思う。



        「もう、お腹ペコペコ。いただきまぁーす」

        わたしは母と向かい合うように席に着くと、あいさつもそこそこに食事
        を始めた。

        お腹のムシが、耐えきれないようにまた鳴いた。
        時刻は午後10時。他の家と比べれば結構遅い夕食。
        でも、わたしがバイトを始めてからはずっとこの時間。

        お母さんには気を使わせたくなかったから、先に食事するように頼んだ
        こともあったけど、バイトが終わるまでいつも待っていてくれた。
        そして、帰宅時間に合わせて食事の準備をしてくれる。

        ありがとう、お母さん。
        わたし「いただきます」の後に、いつもこう言っているんだよ。
        でも、口には出さないようにしている。
        だって気を使わせたくないからね。

        「それにしても、毎日暑いわね。有里も身体には気をつけてね」

        「うん……気を付ける」

        わたしはお腹のムシを退治しようと、口をモゴモゴ動かしながら曖昧に
        返事をした。

        「あなたにもしものことがあったら、私……」

        「大丈夫よ、お母さん。バイトにも慣れてきたし、それにおじさんや店
        に来るお客さんもいい人ばかりだから、心配しないで」

        なーんか嫌な予感がする。
        もう少し気の利いた返事をすれば良かったかな。

        「ごめんね……有里……」

        ……やっぱり! お母さん、涙ぐんでる……!?

        どうしようかな……ここはなんとか穏便に……

        「やだなぁ、そんなことで謝らないでよぉ。ちょっと照れくさいじゃな
        い」

        「うっううぅぅぅっ……」

        だめだ、泣きやんでくれない。
        こうなったら奥の手でも……
        うん。ちょっと恥ずかしいけど……やってみますか……!

        「もう、お母さんったら……わたしの体力を甘くみないでよ。
        さあ、有里の右腕にご注目……中学、高校と鍛えに鍛えたこの身体。
        ……見よッ、この力こぶ……!」

        わたしは、袖をまくる仕草をしてひじを曲げた。
        ……我ながらやっぱり恥ずかしい。

        「ふふっ……有里ったら……」

        でもよかった。ちょっとだけ笑顔が戻って……

        わたしは、気付かれないように母を見つめた。

        お母さん、あんなに白髪あったかな。
        髪の生え際に、白いものが目立ち始めてる。
        それに、あまり笑わなくなったよね。
        ……やっぱりお父さんの入院のせい?

        でもね、そんなことひとりで抱え込まないでよ。
        娘のわたしにも、もっと相談してよ。
        ……これじゃ、こっちまで悲しくなる。

        わたしは母から顔をそらすと、思い出したように話題を変えた。

        「ところで、お母さん。今日もお父さんの見舞に行ったんでしょ。
        具合の方はどう?」

        お父さん、ごめんね。
        これって、突然振る話題じゃないよね。
        わたしは胸の中で父に謝罪しながら母の様子を窺った。

        「ううん、昨日と一緒……
        目は開いているんだけど、お母さんが呼び掛けても何も応えてくれない。
        ……でもね、松山先生の話だと、少しづつでも良くなっているらしいわ」

        「良かったじゃない。先生がそう仰るんだったら、わたしも安心。
        それに、お母さんの呼び掛けも、お父さんの耳にはきっと届いていると
        思うよ。……ただ身体が動かないだけ。
        あさってはお店の定休日だから、わたしも一緒に行くね。
        お父さんに会うのも1週間振りね。……早く会いたいな」

        「そうね。日曜日にはふたりで行きましょう。
        きっとお父さんもびっくりするわよ」

        お母さんが笑っている。
        もう大丈夫。元気を取り戻したみたい。
        さすがは夫婦の絆。御見それしました。

        ……でも、わたしは複雑な気分。
        母が話した松山先生って、お父さんの担当医なんだ。
        お母さんは信頼しているけど、わたしは苦手。

        初めて会った時から、なんかこう……身体を舐め回すような視線にビク
        ッとなっちゃって……
        きっとわたし、あの先生に会うのが怖いのかもしれない。

        でも、こんなこと言ったら罰が当たるよね。
        多分、わたしの思い過ごし……多分……

        「あ、それと……並木のおじさんも心配していたよ。
        お父さんの容体と、お母さんにあまり無理しないようにって……」

        並木のおじさん、ごめんなさい。
        ついでみたいな言い方で……

        「並木さんにも余計な心配を掛けちゃったわね。
        お母さんは大丈夫だから、有里の方から宜しく伝えてくれないかしら。
        それと、近いうちにわたしもお礼に伺うわね」

        「えっ、お母さん来るの?」

        「ええ、行かせてもらいます。娘の働き具合も見てみたいしね」

        なんか最悪……
        これも並木のおじさんをついで扱いにしたから?

        でも良かった。
        お母さんとこんなに長く話できて……
        お父さんも、早くこんな会話に加われたらいいのにね。

        わたしは、父がいつも座っていた椅子に視線を落としてから、リビング
        の本棚に目を移した。
        その棚には、家族三人の思い出が詰まった写真立てが飾られている。

        父と母と私が三人並んだ状態で、高原の湖をバックに撮った記念写真。
        父と母の笑顔が眩しくて懐かしい。

        お母さんの代わりに、わたしの涙腺が緩んできちゃった。




レッツ・バスタイム ?!























(二)


七月 十八日 金曜日 午後九時  早野 有里
 


        「ただいまーっ」

        続けて、お母さん怖かったよ!
        そう思わずしゃべりそうになって、わたしは慌てて口をつぐんだ。

        「あら、お帰り。何かあったの……?」

        ほら、感の良い彼女は気付き始めている。

        「ううん、なんでもない。それより……今日は早かったでしょ」

        「そうね、いつもよりね」

        ここは、急いで話題を変えなくちゃ。

        「うん。今日はもう帰っていいって、並木のおじさんが……
        後片付けは俺がやるからって。
        ……別に、押し付けたわけじゃないよ」

        なぜか後半早口でしゃべっていた。
        こんな言い方をすれば今日の頑張りが無駄になってしまうけど、今は仕
        方ない。

        「そうね、信じるわ。それより、お風呂が沸いているから先に入りなさい」

        「はぁーい」

        わたしは、わざと子供っぽい返事をしながら浴室に向かった。


        この人が誰なのか、きみにも分かるでしょ?

        そう。彼女がわたしのお母さん。
        名前は、君枝っていうの。
        お料理が上手で、何にでも良く気が付いて、それに優しくて……

        あえて短所を探せば、うーん、気が優しすぎること。
        悪く言えば気が弱い。
        それに、ちょっとオットリしていて運動は大の苦手。

        どちらかというと、負けず嫌いで身体を動かすのが大好きなわたしとは
        正反対……
        足して2で割れば丁度いいかも……

        顔なんか、未来のわたしにそっくり? だと思う。
        スタイルは、お世辞にも良いとは……

        少し前までは、昔の服がどんどん着られなくなって……
        ウエストがゴムのスカートばかり履いて……
        その割にわたしの倍くらいご飯だけ食べて……

        でも、そんなお母さん好きだったな。
        今は、何かあるとスグに涙ぐむ……
        これもお父さんの病気のせい?



        「暑いからって、烏の行水はダメよー」

        「わかってまぁーす。もう、いつまでも子供扱いして……」

        脱衣場に入ると、わたしは身に着けているものを1枚だけ残してサッと
        脱ぎ去った。

        えっ、残りの1枚……?
        ……そんなの……聞かないでよ。

        足元から吹き付ける扇風機の風が、スゥーッと肌に直接触れて、しばら
        くこのままでいようかなと思うくらい気持いい。
        それなのに「グゥーッ」と、お腹の鳴る音が邪魔をした。
        仕方ないから、早くお風呂に入って晩御飯を食べようかな。

        それではお待ちかね? の最後の1枚に手をかけ、両手でするすると肌
        上を滑らしていく。
        そして、紐状になったそれを足首から抜き取った。

        少し弱めの照明の下、洗面台の鏡に上半身裸の少女が映っている。

        誰のことって? 
        もちろん……わたし……
        中学、高校と運動部で鍛えたから、今のところ無駄な脂肪も一切なし。

        さあ、汗を流そうかな。
        わたしは浴室の扉を開くと中に入って行った。




           七月 十八日 金曜日 午後九時二十分   早野 君枝


        リビングの壁越しに有里の鼻歌が聞こえてくる。

        「もう、あの子ったら……」

        まだまだ子供ね、と言おうとして私は口を閉ざした。
        そして「ごめんね、有里。あなたにまで迷惑をかけて……」

        代わりに口をついたのは謝りの言葉。
        いけないと思いつつも、つい口走っている。

        あの人が入院してから確かに私の気持ちは弱くなった。
        何気ない言葉に胸が抉られたり、悲しみから涙が止まらないこともある。

        「少し、あの子の元気を分けてもらおうかしら」

        私は天井を見上げて気分を落ち着かせると、出来あがった料理を食卓に
        並べていった。
        あとは有里がお風呂から上がって来る直前に、お汁を温めれば出来あが
        り。

        お母さんが有里に出来るのはこのぐらい。

        「ごめんね」

        また同じ言葉を私は呟いてしまった。




           七月 十八日 金曜日 午後九時三十分   早野 有里  


        「ふーぅっ、いい気持ち……」

        熱めのお湯が今日1日の疲れを忘れさせてくれる。
        わたしは湯船の中でくたくたの手足を、マッサージするように揉みほぐ
        してあげた。

        あーっ、気持良すぎてこのまま眠ってしまいそう。
        ううん、本当に眠たくなってきた。

        このままではまずいなぁと思って、眠気を振り払うように頭を軽く振る
        と浴槽を出ることにした。

        「あー、ちょっと長く浸かり過ぎたかな。頭がくらくらする」

        ボーッとした頭の中、シャワーをぬるめにセットし、火照った肌を冷ま
        すように肩から背中にお湯を掛け流していく。
        そして滑らかな肌の感触を楽しむように、手のひらのスポンジでやさし
        く撫でる。

        自慢じゃないけど、わたしの肌って白くてきれい。
        背中からお尻も、ほら、染みひとつない。
        スタイルだって、それほど悪くないと思うよ。

        胸のふくらみもツンと前を向いているし、お尻のお肉も全く垂れていな
        い。
        ウエストも、モデル並みとはいかないけれど、キュッと締まっている。

        でもね。気になるところも、いっぱいあって……
        全体的に、なんというか子供っぽいというか、アンバランスというか……
        要するに成長途上の身体ってこと……

        特に、胸はもう一回り大きくなって欲しいな。
        高校生になった頃から急に発達し始めて、人並みにはなんとか追い付い
        たけど、まだまだ大人の女性って感じじゃないんだよね。
        青くて未成熟な果実ってとこ……

        それに男の人って巨乳が好きなんでしょ。

        だからテレビに出てくるアイドルって、ボヨーンッて感じで、わざと胸
        の谷間を強調したりフクラミがはっきりわかる服を着たりしているのか
        な。

        でもね……聞いた話だと、貧乳の方が感じやすいんだって……
        アレの時に甘い声をだすのは、そっちかもしれないよ。

        ……いやだ。自分で言って恥ずかしくなってきた。

        でも、それ以上に深刻なのはお尻の方かな。
        肌にも弾力があって、お尻の筋肉にぎゅっと力をいれるとヒップ全体が
        上を向いて……

        それのどこが不満って……?

        実はね、ヒップの大きさ。
        こっちは胸と違ってもう充分大人ってかんじ。

        胸が未成熟なら、お尻は完熟した果実。
        ……あっ、また言っちゃった。

        でも、これ以上は大きくなって欲しくないよね。
        だって、歩くたびにお尻が揺れるのって恥ずかしくない?

        ……えっ、見てみたいって?

        いやだよ。見せてあげない。

        ……これって、贅沢な悩みなのかな。
        でも、女性なら完璧なプロポーションに憧れるよね。

        さあ、前の部分もシャワーを掛けてお風呂から上がろっと。

        ねえ、いつまで見てるの……?
        これ以上は、だーめっ。

        わたしの大切な処は、誰にも見せないからね。




プロローグ 美少女有里























(一)


七月 十八日 金曜日 午後八時  早野 有里

 

        「ごちそうさん」

        「ありがとうございまーす。お気を付けて……」

        わたしは軽くお辞儀をした後、笑顔の魔法を掛ける。

        この人は、どうかな? ……あ、口許が緩んだ。
        どこかのキャッチフレーズじゃないけど、スマイルの効果は超抜群ね。
        これで、またひとりお得意様ゲット……かな。

        あとは食器を片づけてテーブルを拭いたら、今日のお仕事も終わりのは
        ず……うん?

        あれっ……? きみは誰よ。
        何も注文いていないところを見ると、お客さんじゃ……ないよね。
        それとも、他に用でもあるの?

        …… ……

        はっきりしない人ね。言いたい事があれば、ちゃんと言いなさい。

        …… ……

        はあ、しょうがない人ね……
        分かったわ……もう、話さなくていいから。

        ……その代わり……わたしの相談相手になってくれる?

        ……♪♪……

        ……えっ、なってくれるの? ……ありがとう。
        これで、きみとわたしはお友達。これから仲良くやっていきましょうね。

        ところで、今から始まる物語の主人公が誰なのか、きみ、知ってる……?

        ……えーっ、知らないのぉ? 
        なーんか、ショックだな。

        うーん、仕方ないわね。それじゃぁ、特別に教えてあげる。
        よぉーく、聞いててよ。

        夢と冒険に満ちた物語……じゃなくて、愛と涙があって、ちょっぴりエ
        ッチな物語の主人公。

        それは……?!

        …… ……

        ……早野有里、わたしのことだよ。
        ……どう、驚いた?

        そんなことじゃなくて、ちょっぴりエッチが気に入らないって……?

        それを、わたしに言われても……

        まあ、そんな些細なことは脇に置いといて……
        まずは自己紹介するね。

        名前は、早野有里。
        今年の春、某難関? 国立大学教育科に入学した18歳。
        そう、花の女子大生ってところ……ちょっと古いかな。

        家族は、父と母とわたしの3人家族。
        ただ、お父さんは病院に入院していて、家にはお母さんとわたしだけ。

        髪型は前髪を眉の上で切り揃えたポニーテール。
        これは高校に入学してから今まで変えたことのない、わたしのトレード
        マークみたいなもの。

        顔は……美人だと思う。ただし自称よ。
        周りの友達は、わたしのことを可愛いと表現するけど……どうかな?

        でも、わたしは気に入ってる。
        ちょっと大きめの勝気な瞳に、すじの通った鼻、それに薄い唇。
        そうそう、忘れていた。笑うとほっぺたに浮き上がるえくぼ。
        実は、これが一番のお気に入りだったり……

        身長は162センチ。体重は……教えてあげない。
        他に質問は……?

        えっ、スリーサイズ……?

        ごめんなさい。そういうのは、もっと親しくなってからの方がいいと思
        うの。
        お互い、今日が初対面なんだし……

        あっ、おじさんが呼んでいるから、また後でね。



        「そろそろ閉めようか。有里ちゃん、暖簾外してきて」

        わたしは少し間延びした返事をして、磨りガラスの戸を開けると表に出
        た。
        ぬるりとした生温かい風が肌にまとわりついてくる。

        いやだなーっ、この感触。

        こういう時はさっさと片付けようと、ちょっと背伸びしながら暖簾を取
        り外し、くるくるっと丸めて小脇に抱える。

        どう? なんか様になってるでしょ。

        ……でもこんなの、誰だって直ぐに出来るようになるわよ。

        「はぁー涼しい。ここは天国ね」

        わたしは空調の利いた店の中で生き返ったように両手を広げて、思いっ
        きり大げさに深呼吸した。
        もう外に出たくないって思うほど快適な空間。

        「ごくろうさん。後はおじさんが片付けるから、有里ちゃんはもうお帰
        り……」

        くつろぐわたしに気を回してくれたのか、おじさんからのありがたーい
        お言葉。

        えっ? この人誰って……?

        そう、焦らない。

        この方は、わたしの御主人様……ううん、違った。
        わたしをバイトで雇ってくれた、ありがたいこの店のオーナーさん。

        苗字は並木と言うんだけど……
        背が低いからかな、親しい人はネズミ親父とかチビ親父とか言っている。

        もちろんわたしは、そんな失礼な呼び方はしないわよ。
        単純におじさんとか並木のおじさん。
        間違ってもそこのチビなんて、心の中でも言ったことは……ない?

        でもね、そんなおじさんをわたしは尊敬しているんだ。
        奥さんを10年くらい前に亡くして周りから再婚を勧められたこともあ
        ったけど、俺の嫁は生涯ただひとりと言ったとか言わないとかで、今も
        ひとりで暮らしていて……
        涙もろくて頑固で、意地っ張りで、そのくせ人が良くて……
        商売をしているのに、自分が儲けることより周りのことばかり気にして
        いる。

        どう、わたしの気持ち分かるでしょ。
        それに、料理の腕は保証済み。
        確かに厨房の道具は古いし、テーブルの塗装も剥げかかっているけど、
        一度でもここの料理を食べた人はやみつきになること間違いなし。
        きっと近い将来、某ガイドブックで星が三つ並んでいると思うよ……多
        分ね。



        「コツコツ……」

        いつもより早めにバイトを終えたわたしは、ひとり家に向かって歩いて
        いた。
        まだ午後8時過ぎというのにシーンと静まりかえって猫の鳴き声もしな
        い通りに、足音だけが寂しく響いている。

        「お腹すいたな……」

        わたしはごまかすように独り言をつぶやいた。

        なぜかって? ちょっと怖いから。

        その理由は、この商店街のせいだと思う。
        まず、道路幅が狭いわね。
        車2台が交わすのに苦労するくらいだから……

        そのせいで、建物が両サイドから押し寄せて来る感じ。
        これって昼間は特に気にならないけど、日が暮れて暗くなると結構威圧
        感があって不気味なのよね。
        そして2番目が、俗に言うシャッター通りというやつ。
        道路を挟んで20軒ほどお店屋さんが並んではいるんだけど、その半分
        くらいは年中シャッターが降りている。

        わたしが子供の頃はもっと賑わっていて、お肉・お魚・お野菜、ついで
        に日用品も、みんなこの商店街で済ませていた。
        よくお母さんに連れられて夕ご飯の買い物をした覚えがあるけど、今で
        はこの有様……

        まあそんなことは、偉い人にまかせて早く帰ろう。

        わたしは、なにかに追い立てられるように歩くスピードを速めていた。
        そしてあの角を曲がればもうすぐ我が家、という所まで来て、黒い外車
        が道を塞ぐように停まっているのに気が付いた。

        あれ? あの車なにをしているんだろう……?

        この辺りは街灯が全然ないから、頼りになるのは家の明かりか月明かり
        くらい。
        当然、中に誰が乗っているのか全く分からないけど、こういうのってな
        んだか不気味……

        まさか通り掛った瞬間、突然ドアが開いて可憐な娘がアレ―ッて……こ
        とはないでしょうね。
        やだな。そう思っただけで歩く速度が急に遅くなってしまったじゃない。

        ここは慎重に……前を真っ直ぐに見て……

        そう、よそ見をせずに歩くのが一番かも。
        目の視野から黒い物体が消え去るまで我慢我慢。

        もう少し、後1メートル……

        心の中で実況中継しながら歩いたけど、結局何も起きなかった。

        ……なんか、拍子抜けって感じ。

        それよりも、緊張したせいで全身汗まみれ。
        これって冷え汗っていうやつ……?

        わたしは、角を曲がって車が見えなくなるのを確認すると、バッグから
        ハンカチを取り出して額や首筋に押し当てるようにして拭い始めた。
        そして、あたりをきょろきょろと見回してからシャツの襟首を掴んでパ
        タパタと……
        ついでに下の裾からもパタパタと……

        でも、やらないよりマシってくらいの効果かな。
        ここは早く家に帰ってシャワーを浴びるのが一番みたい。

        わたしはそう自分に言い聞かせると、もう汗が出るのもお構いなしに帰
        り道を急いだ。




                七月 十八日 金曜日 午後九時  


        「あれが早見有里。今回のターゲットの一人です。
        ……どうです。なかなかの美少女でしょ? ね、伯父さん」

        私はルームミラーに映る男性に声を掛けた。
        男は少女の消えた角を目で追い満足そうに頷くと、疲れているのか目を
        閉じた。

        少し癖のある髪を整髪剤で整え、上品な生地のスーツに袖を通した恰幅
        の良い紳士。
        これが傍目に見た評価かもしれない。

        事実、彼はこの街に本社を構える巨大金融会社の社長だ。
        たった一人で今の会社を起こし、わずか10年でこの地域を代表する企
        業に育てあげた経営センスには目を見張るものがある。

        今やこの街の行政・司法でさえ、この男には一目置かざるを得ない。
        当然、闇の住人達も……

        だが、私は知っている。
        ここまでのし上がる間に、裏で何が行われたのかを……

        欲しい物を手に入れるためなら、手段を選ばない残酷なまでのやり口。
        金・色・暴力、この男の前では法律さえ役には立たない。
        お陰で、これまでどれだけ多くの人が泣かされてきたか……
        確かに汚いと思うことも多々あるが、割り切ってしまえばこれが現実だ
        しこれが世の中かもしれない。

        そんな彼の元で、私もここまで幾度かこの両手を汚してきた。
        だが、これまでの自分生き方には悔いは無い。
        数少ない身内の一人として、また忠実な部下として、この男を支える今
        の仕事に不満もない。

        「……車を出してくれ」

        両目は閉じているが眠ってはいないようだ。

        私は行き先を確認せずに車を発進させた。
        ここまでの長い付き合いで、この男が何を考えどうしたいかぐらいは分
        かるつもりだ。

        それよりも、明日から忙しくなる。
        心はそれを期待と捉え、高まる鼓動が抑えられなくなっていた。





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