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ありさ 割れしのぶ  第一章



  
                                          


【第一章】


        
        昭和初期。小雨がそぼ降るうっとうしい梅雨の日暮れ時、ここは京都木
        屋町。
        高瀬川を渡って祇園に向うひとりの舞妓の姿があった。
        すらりとしたいでたちで目鼻立ちの整ったたいそう美しい舞妓で、その
        名を〝ありさ〟と言った。
        衣装は舞妓らしく実に華やかなもので、上品な薄紫の着物には一幅の名
        画を思わせる錦繍が施してあった。豊かな黒髪は〝割れしのぶ〟に結い
        上げられ、菖蒲の花かんざしが彩りを添えていた。
        歳は十九で舞妓としては今年が最後。年明けの成人を迎えれば、舞妓が
        芸妓になる儀式「襟替え」が待っている。襟替えが終われば新米ではあ
        っても立派な芸妓である。

        そんなありさに、早くも「水揚げ」(舞妓が初めての旦那を持つ儀式)の
        声が掛かった。
        稽古に明け暮れている時期はお座敷に上がることもなかったが、踊りや
        三味も上達して来ると、やがて先輩の芸妓衆に混じって何度かお座敷を
        勤めることとなった。
        そんな矢先、ある財界大物の目に止まり、声掛かりとなった訳である。
        だが、ありさは「水揚げ」が嫌だった。好きでもない人にむりやり添わ
        されることなどとても耐えられないと思った。しかし芸妓や舞妓はいつ
        かは旦那を持つのが慣わしだし、それがお世話になっているお茶屋や屋
        形への恩返しでもある。旦那が見初めれば、芸妓・舞妓には選択権はな
        く、お茶屋や屋形の女将の意向に従うのが当たり前。それが祇園の掟。
        そして今夜が、その辛い「水揚げ」の日だ。
        雨のせいもあったろうが、ありさはおこぼがいつもより数倍重いように
        感じた。

        【注釈】水揚げ
        今は少なくなったが、芸・舞妓は旦那と呼ばれるスポンサーを持つのが
        普通とされていた。
        水揚げとは、舞妓が初めての旦那を持つ儀式の事。
        大昔は、旦那の選択権は芸・舞妓には無く、旦那が見初めれば、お茶屋
        や屋形の女将、男衆が言いくるめて、強制的に添わされた。
        水揚げには大きなお金が動くから、屋形側から少しでも条件の良い旦那
        にお願いをする事もあったようだ。
        ただ、現在の祇園には「水揚げ」そのものが無いので注意を。
        現在では、客がある舞妓の旦那になりたいと願っても、その舞妓が旦那
        を持ちたいと思わない限り、それは叶わぬ夢に終わることになる。 今の
        祇園では、旦那云々というよりも、普通の恋愛としてとらえている芸・
        舞妓が多いように聞く。事実、落籍されて(ひかされて…芸・舞妓を辞
        めての意)、そのまま結婚してしまう例も多くなった。


        ありさが高瀬川を東に渡り終えた時、急におこぼの鼻緒がプチン・・・
        と切れてしまった。

        「あぁん、いややわぁ、鼻緒が切れてしもた・・・、どないしょぅ・・・」

        屈んで足元を眺めて見たがなすすべも無く困り果てた。
        白足袋も鼻緒が切れた拍子に足が地面に滑り落ちて、つま先が少し濡れ
        てしまったようだ。
        途方に暮れていたら近くを通り掛かった青年が声を掛けて来た。

        「どうしたのですか?」

        ありさは声がした方向をそっと見上げた。
        そこには優しそうな眼差しの鼻筋の通った背の高い青年が立っていた。
        角帽、詰襟、下駄のいでたちから見て大学生のようだ。

        「はぁ、それがぁおこぼの鼻緒が切れてしもたんどすぅ・・・」
        「それじゃ僕に任せなさい」

        青年はそういってポケットから白いハンカチを取出し、長身を折り曲げ
        てありさの足元に屈み込んだ。
        そのため雨は番傘を差せない青年の背中を濡らした。

        「あ、すんまへんなぁ。せやけど、お宅はん、雨に濡れますがなぁ」

        ありさは慌てて、自分の傘を青年の頭上にかざした。
        遠くから見れば、相合傘の中で芸妓と大学生がいったい何をしてるのだ
        ろう・・・と、きっと奇異に感じたことであろう。
        青年は人目も気にしないで、懸命にハンカチを鼻緒代わりに結わえ付け
        た。
        見ず知らずの自分のために、雨に濡れながら鼻緒を結わえてくれる青年
        の横顔を、ありさはじっと見詰めていた。

        「あのぅ…、お宅はん、学生はんどすなぁ?」
        「ええ、そうですよ」
        「その帽子の印からして、K都大学ちゃいます?」
        「よく分かりましたね。そうですよ、今4回生なんです」
        「そうどすか、えらいんやなぁ・・・」
        「そんなことないですよ。それにしても可愛い足だなあ」
        「えぇ?うちのおみやどすかぁ?そんなん、誉めてもろたん初めてやわ
        ぁ・・・あははは~」
        「おみやって?」
        「あ、おみやゆ~たら足のことどすぇ。京都ではそない呼ぶんどすえ」
        「へえ~、そうなんだ。それは初めて聞いたよ」

        「はい、できましたよ。これで大丈夫。格好良くはないけど、暫くは持
        つでしょう」
        「やぁ、嬉しいわぁ~、お~きに~。お陰で助かりましたわ」
        「それじゃ、僕はこれで」
        「あ、ちょっとお待ちやす~。あのぅ・・・もしよろしおしたらお名前、
        教えてくれはりません?」
        「名前ですか?本村俊介っていいます。あなたは?」
        「うちは、ありさどす~。よろしゅうに~」
        「ああ、どうも」

        本村と名乗る青年は照れ笑いしながら、帽子のひさしに手を置いた。

        「ほな、おおきに~、さいなら~」
        「さようなら・・・」

        先斗町を経て祇園へ向うありさとは反対に、青年は河原町の方へ向って
        行った。
        ありさはふと立ち止まりもう一度振り返った。
        そして、黒い学生服の後姿をじっと熱い眼差しで見送っていた。
        ありさは胸に熱い血潮がふつふつとたぎるのを押さえることができなか
        った。
        お座敷に来る男たちとはあまりにも違う。いや、違い過ぎる。
        今通り過ぎて行った学生の凛々しさと清々しさは、ありさの胸に鮮烈な
        印象を残した。
        だがそんな感傷を振り払うかのように、ありさは再び祇園に向って歩き
        始めた。





野々宮ありさ
 





この作品は、愛と官能の美学 Shyrock様から投稿していただきました。
尚、著作権は、愛と官能の美学 Shyrock様に属しております。
無断で、この作品の転載・引用は一切お断りいたします。


ラヴラヴから凌辱ものまで多ジャンル官能小説取り揃え。
体験談、投稿体験談、夜学問、官能詩、エロエッセイ、その他カテゴリー多数。




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ありさ 割れしのぶ  第二章



  
                                          


【第二章】


        
        今宵始まる生々しい褥絵巻こそが、自分に与えられた宿命であると諦め
        ざるを得なかった。

        祇園界隈に入ると花街らしく人通りも多く、いずこかのお茶屋からは三
        味の音も聞こえて流れて来た。
        ありさは辻を曲がって路地の一番奥のお茶屋の暖簾をくぐった。

        「おはようさんどすぅ~、屋形“織田錦”のありさどすぅ~、遅うなっ
        てしもぉてすんまへんどすなぁ~」
        「あぁ、ありさはん、雨やのにご苦労はんどすなぁ~」

        ありさに気安く声を掛けたのは、お茶屋“朝霧”の女将おみよであった。

        「ありさはん、おこぼどないしたん~?鼻緒が切れてしもたんか?」
        「そうどすんや。ここへ来る途中でブッツリと切れてしもて」
        「あ、そうかいな。そらぁ、歩きにくかったやろ~?ありさはんがお座
        敷出てる間に、あとでうちの男衆にゆ~て直さしとくわ、心配せんでえ
        えでぇ~」
        「おかあはん、お~きに~。よろしゅうに~」
        「ありさはん、それはそうと、大阪丸岩物産の社長はん、もう早ようか
        ら来て待ったはるえ~。今晩は 待ちに待ったあんさんの水揚げやし、社
        長はんもえらい意気込んだはるみたいやわぁ~」
        「・・・」
        「どしたん?あんまり嬉しそうやないなぁ?」
        「はぁ」

        女将に尋ねられて、ありさの表情が一瞬曇りを見せた。

        「ありさはん、こんなことゆ~のんなんやけどなぁ、あんさんは屋形“織
        田錦”に入ってから、どれだけお母はんのお世話になったか解かってま
        すんか?あんさんを立派な舞妓にするために、たんとお金を掛たはるん
        やで?ご飯代、べべ代、お稽古代、おこずかい、ぜ~んぶ、お母はんが
        出したはるんやで?」
        「かんにんしておくれやす、うちが間違ごうとりました」
        「解かってくれたらええんや。さぁ、社長はんが待ったはるでぇ。はよ
        しいやぁ~」
        「あ、はぁ」

        ありさはおこぼを脱いで玄関にあがった。
        脱いだおこぼを揃えようとして、白いハンカチの鼻緒をふと見た。
        先ほど出会った青年の笑顔がふわりと浮かんだ。

        廊下を歩き掛けたありさに、女将はもう一言付け加えた。

        「ありさはん、あんさんは賢い子や。あんまりしつこう言わんでも解か
        ってるやろけど、丸岩はんゆ~たら、関西財界でも五本の指に入るほど
        の大物どす。そんな旦はんに見初められたゆ~たら、すごいことなんど
        すぇ~。せやよって丸岩はんに少々何言(ゆ)われても、何されても怒
        ったらあかんおすぇ~。大人しゅうしとくよ~にな~。ほんでな、今日、
        いっしょに来たはる先輩芸者はんら、あの子ら、水揚げされるあんさん
        にヤキモチ嫉くかも知らへんけど、気にしたらあかんおすぇ~、よろし
        おすなぁ~」
        「お母はん・・・、うちのことそないにまで思てくれたはって、嬉しお
        す。ほんまにおおきに~。お母はんの言わはったこと、よ~憶えときま
        すぅ~」
        「ほな、きばっておくれやっしゃ」

        女将おみよがありさを見てニッコリと微笑んだ。

        「おおきに~、ほな、行て参じますぅ~」

        ありさは、女将の言葉に少し吹っ切れたのか、笑顔を取り戻し丸岩のい
        る部屋に向って行った。

        「ありさどすぅ~、遅うなりましてぇ~」
        「おお、ありさか。よう来た、よう来た。待っとったでぇ。はよ入り
        や~」

        襖の向うからのありさの挨拶に、部屋の中から丸岩の声が返って来た。

        ありさは襖を開けて、丁寧な挨拶を述べた。
        丸岩の前には豪勢な料理や銚子、それに選りすぐりの奇麗どころの芸妓
        衆が三味を弾き、踊りを舞い、かなり華やいでいた。

        「ありさ、かたい挨拶はもうその辺でええから、早ようこっちへおいで」

        丸岩は今年五十八才になるが、さすがに一流の事業家らしく血色も良く、
        体格も立派で五尺九寸を超えるほどの大男であった。髪はふさふさとし
        ていたがかなり白髪混じりで、鼻の下のちょび髭までが銀色に輝いて見
        えた。眼鏡は金縁で顔全体からは好色さが滲み出ていた。

        ありさはしゃなり、しゃなりと着物の裾を艶かしく床に滑らせながらお
        座敷の奥へと歩み寄ると、先輩の芸妓春千代がありさを睨みながら言っ
        た。

        「ありさはん、えらいおそおすなぁ~。あんさん、いつから芸妓のうち
        らより、えろ(偉く)なりはったん?」
        「あ、春千代はん、かんにんしておくれやす。お母はんに6時でええゆ
        うて・・・」
        「お座敷の時間はちょっと早め目に来とくのん、常識とちゃいますんか
        ぁ~?」
        「すんまへん・・・」

        ありさは春千代に頭を下げた。
        そこへ丸岩が口を挟んだ。

        「まあまあ、春千代。もうやめとき。わしの顔に免じてもう堪忍したっ
        て」

        「会長はんがそない言わはるよって、もう言いしまへんけど、次から気
        ぃつけてや」
        「はぁ、すんまへん、以後気ぃつけますよってに堪忍しておくれやす・・・」

        「よっしゃ、よっしゃ、ほな、ありさ、はよ、こっちにおいで」

        丸岩はありさを手招きし、横にはべっていた芸妓おきぬに席を空けるよ
        うに指図した。
        お絹が退いたあと、ありさはそっと腰を降ろした。

        「おお,待っとったで、ありさ,お前、見るたんびにええおなごになっ
        て行くなぁ。ほな、酌してんかぁ」

        丸岩は相好を崩しながら、気安くありさの肩に手を廻した。
        ありさは頬を染めらながら徳利を手にするが、緊張のためか丸岩の持つ
        猪口にまともに酒を注げない。
        そんなありさの初々しい様子を、丸岩は満足そうに微笑みながら話し掛
        ける。

        「そんな緊張せんでもええで。気楽に行こ、気楽にな。わっはっはっは
        ~」
        「はい・・・」

        ふたりの様子を見ていた芸妓の春千代が一言挟んだ。

        「いややわぁ、会長はん。うちら妬けるわぁ~」
        「ほほぅ~、春千代ほどのべっぴんでもやきもち妬くんか?」
        「会長はん、相変わらず口が上手どすなぁ~」
        「はっはっは~、ばれたかいなぁ~」
        「もう、会長はん!いけずどすなぁ~」

        そんな会話のなか、ありさを横にはべらせ満悦顔の丸岩会長に芸妓のお
        きぬが一献勧めた。

        「会長はん、今夜はありさはんの水揚げどすなぁ。おめでとうさんどす
        ぅ~。ありさちゃんも良かったなぁ~」

        おきぬはありさが今宵の水揚げを嫌がっていることを知っていたが、あ
        えて皮肉っぽく祝辞を述べたのだった。
        だが丸岩はその言葉を額面どおりに受取り素直に喜んだ。

        「おおきに、おおきに」

        おきぬは差し出された漆塗りの盃になみなみと百薬の長を注ぎ込む。






野々宮ありさ
 





この作品は、愛と官能の美学 Shyrock様から投稿していただきました。
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目次へ    第三章へ

ありさ 割れしのぶ  第三章



  
                                          


【第三章】


        
        座敷には平安神宮の菖蒲の心髄にまで響くような見事な三味線の音が鳴
        り響き、鴨川の流れのように淀みのない扇の舞いが六月の宵に華を添え
        た。
        華やかに賑わった座敷も幕を閉じ、芸妓達は丸岩に丁寧な挨拶を済ませ
        座敷を後にした。
        座敷に残ったのは会長の丸岩とありさだけとなった。
        待ち望んでいた時の到来に、丸岩は嬉しそうに口元をほころばせた。

        「ありさ、やっと二人切りになれたなぁ」
        「あ・・・、はい・・・」

        虫唾が走るほど嫌な丸岩…今夜はこんな汚らわしい男に抱かれて破瓜を
        迎えなければならないのか。逆らうことなど微塵も許されない哀しいさ
        だめを、ありさは呪わしくさえ思った。

        「さあ、もっとこっちへ来んかいな。たんと可愛がったるさかいになぁ。
        ふっふっふ・・・」

        丸岩が誘ってもありさは俯いてモジモジとしているだけであった。
        そんなありさに痺れを切らしたのか、丸岩は畳を擦って自ら近寄り、あ
        りさをググッと抱き寄せた。

        「えらい震えとるやないか?何もそんな怖がらんでもええんやで。ふっ
        ふっふ・・・」
        「あ、あきまへん・・・、あのぅ・・・お風呂に入って・・・あの・・・
        白粉落とさんと・・・」
        「まあ、ええがな、そのままでも。お前のええ匂い、何も消してしまう
        ことあらへんがな。ぐっふっふ・・・」

        丸岩は震えるありさを強引に抱きしめ、ありさの唇を奪ってしまった。

        「うっ・・・ううっ・・・」

        両手で押して跳ね除けようとしたが、丸岩はさらに胸の合わせ目から、
        ゴツゴツとした手を入れて来た。

        「あっ、あっ、会長はん、そんなことしたらあかしまへん~」
        「何言うてんねん。わしはお前を水揚げしてやったんやで。嫌とか言え
        る思てんのんか?」

        丸岩はありさに凄みながら、再びありさの唇を奪い取り、胸に手をさら
        に奥に差し込んだ。
        それでも必死に抵抗しようとするありさを、丸岩は押し倒し、帯を強引
        に解こうとした。

        「あぁ、会長はん、そないなことしたらあかんえぇ・・・、べべ破れま
        すぅ~!あぁ、あのぅ、自分で脱ぎますよって、堪忍しておくれやすな
        ぁ~」
        「ほう、自分で脱ぐちゅうんか?うん、それもええやろ。舞妓がべべ脱
        ぐ姿、見るのもええもんや。よっしゃ、ほな、隣の部屋に行こか?」

        丸岩は立ち上がり、隣の部屋との堺にある襖をさっと開いた。
        見ると、隣の部屋にはすでに豪華な夫婦布団が敷かれており、準備万端
        と言ったところだ。
        枕灯だけが薄っすらと灯り艶めかしく映える。
        ありさは一瞬立ちすくんだが、それも束の間、観念したのかゆっくりと
        寝室に入って行った。
        部屋に入ってから脱衣をためらうありさに、丸岩の催促の言葉が飛んだ。
        ありさは部屋の隅に行き、衝立ての向うで、しゅるりしゅるりと帯を解
        き始めた。

        「衝立てに隠れたら、脱ぐとこ見えへんがな」
        「あぁ・・・そんなん・・・、恥ずかしおすぅ・・・」

        丸岩が衝立てを無造作に横に移動させると、ありさは向こう向きで帯と
        着物を解き、襦袢姿になるところだった。狼狽して、肩をすくめ長襦袢
        の胸元を両手で押さえている。
        そんな仕種がかえって丸岩に刺激を与えてしまったようだ。
        丸岩はありさの背後から猛然と襲い掛かり、隠そうとする胸元に手を差
        し込んで来た。

        「ああっ!会長は~ん~、堪忍しておくれやすぅ~!」

        か弱い力で抵抗を試みたありさであったが、如何せん相手が五十八とは
        言っても大柄な男、それに何と言っても水揚げされた側という立場も弱
        い。ありさの乳房はあえなく丸岩のてのひらの餌食となってしまった。
        ありさの耳元に熱い息を吹きかけ、しわがれた声で囁く丸岩。

        「ぐふふ・・・、ええ感触やなぁ~。ありさ、お前、ええ乳しとるなぁ
        ~。ぐふふふ・・・」
        「い、いとおすぅ!、あ・・・ああっ・・・会長はん・・・堪忍してお
        くれやすぅ・・・」
        「何を言うてるんや。さぁ、さぁ、寝間へ行こ。早よ、行こ」

        丸岩はありさを抱きしめながら、もつれるように布団になだれこんだ。
        ありさのか細い身体の上に丸岩は覆い被さり、乳房を揉みながら、再び
        唇を奪ってしまった。

        「うっ・・・ううっ・・・」

        さらに粘っこい舌はありさの首筋を這いまわった。
        まるで蛭が這い回っているような不快感・・・ありさは身体をよじって
        微かな抵抗を示した。
        丸岩はそんな些細な抵抗を処女の恥じらいであると喜び、むしろ男の興
        奮を駆り立てる結果となってしまった。
        胸元は長襦袢はおろか、肌襦袢までも掻き広げられ、一点の染みも無い
        美しい白桃のような乳房がポロリとあらわになっていた。
        丸岩の唇は首筋から乳房へ、そして乳首へ移行した。
        ありさの唇から火の点いたような声が発せられた。

        「ああっ!ああ、いやや、いやや、堪忍しておくれやすぅ~・・・」
        (チュパチュパチュパ・・・)

        丸岩はありさの声に耳を傾ける様子も無く、処女の乳頭に音を立ててし
        ゃぶりついていた。
        「ふふふ、かいらしいなあ。ええ身体しとるやないか。うふふふ・・・」

        淫靡な笑いを浮かべながら、再び乳首を吸い上げ、手は器用にありさの
        上半身を隈なく触りまくった。
        いつのまにか上半身から襦袢は脱がされ、腰の紐が辛うじて全開を止め
        ていた。
        丸岩の指がその腰紐に掛かった。

        「ああ!いやどすっ!」

        (パラリ・・・)
        丸岩の慣れた手付きに、ありさの腰紐はいとも簡単に解けてしまい、肌
        襦袢は無造作に左右に肌けてしまった。そのため、ありさの下半身を覆
        う白地の湯文字があらわになった。
        柳腰に巻かれた純白の湯文字が男の情欲を一層かき立てる材料になって
        しまった。
        丸岩は走り出した汽車のようにもうどうにも止まらない。鼻息荒く湯文字
        の中に手を差し込もうと伸ばした。しかし、ありさは脚をじたばたさ
        せて、両手で丸岩を払い除けようと懸命にもがいた。

        「ありさ、そんな嫌がらんでもええやないか。今からええこと教えたる
        さかいな~。ぐっひっひっひ・・・」

        そう言いつつ丸岩のねっとりと湿気を帯びた手は、湯文字を割り内股を
        撫でながら、女の秘境にまで忍び込んだ。

        「ひやあ~!」

        生まれてこの方他人に指一本触れられたことのない女の恥部に、丸岩の
        指はたやすく到達してしまったのだ。
        (クリュ・・・)

        「堪忍え~、堪忍しておくれやす!」
        「うへへ、うへへ、ええ感触やな~。ぐへへ、ぐへへ・・・」
        (クニュクニュクニュ・・・)
        「いやや!いやや!堪忍どすぅ~!」

        いまだかつて開かれたことのない美しい桃色の亀裂は、野卑な男の指で
        開かれ、擦られ、こね回され、散々なぶりものにされてしまった。
        だがそれはありさにとって、まだ地獄草子の序章にしか過ぎなかった。
        丸岩は湯文字をざばっと開いて唇を近づけた。

        「ほな、ぼちぼち、ここ舐(ねぶ)らせてもらおか~。どんな味しとる
        かいな?ぐひひひ・・・」
        「いやっ!いやどすっ!会長はん、堪忍してぇ・・・」

        ありさはしくしく泣き始めたが、丸岩は気にも留めずさらに卑猥な言葉
        で追討ちを掛けた。

        「おい、ありさ。『うちのおそそ、ねぶってください』て言い」
        「そんなぁ・・・そんな恥ずかしいこと言えまへん・・・」
        「ほな、ちょっとおいど痛い目させたろか?」

        丸岩はありさの尻を思い切りつねった。

        「い、いたっ!やめてやめて、いいますぅ、いいますよってに堪忍して
        おくれやすなぁ・・・」
        「ほな、言い」
        「うちの・・・お・・・おそそ・・・ねぶってください・・・いやぁ・・・
        恥ずかしい・・・」
        「よっしゃよっしゃ、よう言えたがな。ほたら、ねぶるで、ぐひひひ・・・」

        ありさはまもなく襲い来るであろう蹂躙の嵐に備え、眼を閉じ、唇をグ
        ッと噛み締めて耐え忍ぼうとした。

        (ベチョ…)
        「ひい~!」
        (ベチョベチョベチョ・・・)
        「いやあ~!、いやや、いやや、堪忍どすぅ~!」
        (ベチョベチョベチョ・・・)

        まるでなめくじが秘所を這うようなおぞましい感触に、ありさは虫唾が
        走る思いがした。
        丸岩の愛撫はとどまるところを知らず、舌は割れ目からやや上に移動し、
        栗の実を襲った。

        「ひぃ~~!」

        指で丁寧に実の皮を広げ、舌先をあてがった。
        男を知らない身とは言っても、実は女の最も敏感な部分である。
        ありさはたちまち火が点いたように泣き叫んだ。

        「あぁあぁあぁ・・・、嫌ぁ、なんかけったいやわぁ・・・、あああ、
        あかん、会長はん、そこねぶったらあかんっ、そんなことしたらあきま
        へん~!」
        (ベロベロベロ・・・、レロレロレロ・・・)
        「ひぇ~~!あかん、あかんっ!」
        (ベロベロベロ・・・、レロレロレロ・・・)
        「はふ~っ~~!」
        「へっへっへ、だいぶ気持ちようなって来たみたいやなぁ。ほなら、も
        っと美味しいもんやるわ。へっへっへ・・・」

        丸岩はそういうなり、ありさを湯文字のまま脚を大きく開脚させ、腰を
        グググッと突き込んだ。
        (グググッ・・・)

        「ひゃあ~~!い、いたっ!痛いっ!!」
        「最初はな、誰でも痛いもんなんや。がまんしい。そのうち、気持ちよ
        うなるさかいな。ぐっひっひっひ・・・」

        丸岩はそんな言葉を吐きながら、怒張したものをさらに深く押し込み、
        出し入れを始めた。

        「あっ、あっ、痛い、痛い・・・堪忍やぁ、堪忍しておくれやすぅ~・・・」

        (グチョグチョグチョ・・・)

        丹念な愛撫の末の挿入と言っても、ありさはまだ男を知らない身体、痛
        くない訳が無かった。
        丸岩はありさの真上に乗って突きまくったあと、さらに後背位にし、尻
        をしっかりと抱きかかえ後方から抉り始めた。

        「ひゃあ~、ふわぁ~、あ、あ、堪忍やぁ・・・」
        「えへへ、ありさ、ええおそそやないかぁ~。締りも最高や。ほへ~、
        こんな気持ちええおなごちゅうのんも珍しいわ!わしは、もっぺんお前
        を惚れ直したでぇ~。でへへ・・・」
        「ああ、痛い、痛い、痛い!」
        「おお、おお、おお、わし、もうあかん、もうあかん、イキそうやがな・・・、
        ほへ~!うぉうぉうぉ~~~!!」

        ありさの背後から挿し込んだまま、丸岩はついに果ててしまった。
        そのまま抜きもしないで、褥に手折れ込むふたり。
        丸岩はありさの乳房を優しく揉みながら、小声で囁いた。

        「ありさ、わしはなぁ、お前をほんまに好きになってしもたで。 これか
        らもかいがったるさかいなぁ。安心しいや」

        丸岩のその言葉に、ありさは形ばかりの愛想を返した。

        「おおきにぃ・・・」

        ありさは下半身にぬめりを感じ、ふと見ると、真っ赤なものが白い敷布
        団を染めていた。






野々宮ありさ
 





この作品は、愛と官能の美学 Shyrock様から投稿していただきました。
尚、著作権は、愛と官能の美学 Shyrock様に属しております。
無断で、この作品の転載・引用は一切お断りいたします。


ラヴラヴから凌辱ものまで多ジャンル官能小説取り揃え。
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ありさ 割れしのぶ  第四章



  
                                          


【第四章】


        
        その後も丸岩は週に一度ぐらい、ありさを座敷に呼び夜を共にした。
        逆らってもどうしようもないさだめなら、いっそ従順に努めてみようと、
        ありさは決心したのだった。
        だが、そんな矢先、ひとつの出来事が起こった。

        ありさは女将の使いで、四条烏丸の知人の屋敷へ届け物をした帰りのこ
        とだった。
        届け物も無事に済ませたことを安堵し、小間物屋の店頭に飾ってあった
        貝紅を眺めていた。

        「やぁ、きれいやわぁ~・・・」

        ありさは色とりどりの貝紅に目を爛々と輝かせていた。

        その時、何処ともなくありさを呼ぶ声が聞こえて来た。

        「ありささん」

        若い男性の声である。

        (だれやろか・・・?)

        ありさが声のする方を振り向くと、そこには少し前におこぼの鼻緒をな
        おしてくれた学生本村俊介の姿があった。

        「あれぇ~、お宅はんは、あの時の~。その節は鼻緒をなおしてくれは
        ってありがとさんどしたなぁ~」
        「いいえ、とんでもないです」
        「あのぅ・・・」
        「はい、何か?」
        「今、確か『ありさ』ゆ~て呼んでくれはりましたなぁ~?」
        「ええ、そうですが。違ってましたか?」
        「いいえ、そやおへんのや~、おおてたよってに嬉しかったどすぅ~。
        よう憶えてくれたはったなぁ~思て。お宅はんは確か『本村俊介』ゆ~
        お名前どしたなぁ~?」
        「ありささんこそ僕の名前をよく憶えてくれているじゃないですか」
        「そんな~ん~、そんなん当たり前どすがなぁ~。そやかて困った時に
        助けてくれはったお方はんのお名前忘れたら、バチ当たりますがなぁ~」
        「いやあ、困ったなあ。僕は当然のことをしたまでですよ」

        ありさは俊介と言葉を交すうちに惹かれて行くものを感じずにはいられ
        なかった。
        花街で大金を使い遊興する男たちのようなどす黒い欲得など微塵も見ら
        れない。
        彼の持つ実直で清廉な態度は、ありさに強い衝撃と印象を与えた。

        「ところで今お忙しいですか?もし時間があればお茶でもいかがです
        か? ちょっと行ったところに甘味処があるのですが、甘いものはお嫌い
        ですか?」
        「甘いもん?だ~い好きどすぅ~!」
        「ははは~、じゃあ決まった」

        「おこしやす~」

        ふたりは甘味処ののれんをくぐり、向い合って座った。

        「ありささんは何がいいですか?」
        「そうどすなぁ~、暑おすさかいに~かき氷いただきまひょかなぁ~?」
        「僕もそうしよう。氷ぜんざいにしようかな」
        「ほな、うち、宇治金時にしますわぁ~」

        かすりの着物を着て襷をした娘が注文を取りに来た。

        「おこしやす~、注文お決まりやすか?」
        「宇治金時と氷ぜんざいをもらおうか」

        本村が答えた。
        店の娘は注文をすぐに反復し、去り際、本村に声を掛けた。

        「ほんま、きれいな舞妓はんどすなぁ~」

        本村はどう言葉を返したものやら狼狽した様子だったが、咄嗟に口をつ
        いて出た言葉は・・・。

        「そうでしょ?僕もそう思ってます」

        俊介の言葉に、ありさはポッと頬を赤らめた。

        「そんなこと言わはったら照れますがなぁ~」

        店の娘は俊介に言葉を続けた。

        「こんなきれいな舞妓はんが彼女どしたら、鼻高々どすやろなぁ~?」

        「ええ、もう天狗ほど鼻が高いです。ははは~」
        「本村はん、ようそんなこと・・・。うち恥ずかしおすがなぁ・・・」

        ありさは先ほど以上に頬が真っ赤に染まっていた。

        先程からそんなやりとりを伺っていた店主らしき男がやって来て、店の
        娘を叱り始めた。

        「これ、お客はんに失礼なことゆ~たらあきまへんがな。早よ、謝り」

        そして店主はふたりにぺこぺこと頭を下げて、

        「うちの娘、失礼なことゆ~てすまんどすなぁ」
        「いいえ、気にしてませんよ。ねえ?ありささん?」
        「はぁ・・・、そのとおりどす・・・」

        そんな些細な会話であったが、ありさはとても嬉しかった。
        (本村はん、うちのこときれいて思たはるんや。鼻高々やゆ~てくれは
        ったし・・・)

        俊介はありさに尋ねた。

        「舞妓さんって、とても華やかだけど、結構大変なんでしょう?」
        「はぁ、そうどすなぁ~、踊り、三味線、お琴、お茶その他、お稽古事
        ばっかりの毎日どすぅ・・・」
        「座敷にも上がったりするんですか?」
        「はぁ・・・、一応芸妓はんが主やけど、舞妓のうちらもお座敷にはた
        まにあがりますぇ」
        「そうなんですか」

        お座敷の話に移るとありさの口は重くなった。
        俊介はありさの心情を敏感に察し、すぐに話題を転じた。
        そして再び話は弾んだ。

        「本村はんは大学で何勉強したはりますのん?」
        「法律です」
        「へ~ぇ、そうどすんかぁ~、ほな、将来は政治家にならはるんどすか?」
        「大望は抱いてはおりますが、夢のような話ですよ」
        「本村はんは、どこに住んだはるんどす?」
        「ええ、堀川・蛸薬師で下宿をしています。汚い所ですが良かったらい
        つでも遊びに来てくださいね」
        「やぁ、嬉しいわぁ~、ほんまに行ってもよろしおすんかぁ~?」
        「休みの日にでもぜひ来てくださいね」
        「ほな、今度の日曜日行ってもよろしおすかぁ?」
        「ええ、もちろんです。待ってますよ」






野々宮ありさ
 





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ありさ 割れしのぶ  第五章



  
                                          


【第五章】


        
        そして日曜日。ありさは浴衣姿に薄化粧と言う言わば普段着で蛸薬師へ
        向った。
        俊介に会える。好きな人に会える。ありさはそう思うだけで、胸が張り
        裂けそうなほどときめいた。
        路地を曲がると子供たちが楽しそうに石けりをしている。
        順番を待っている男の子に下宿の『百楽荘』がどこかと尋ねると、すぐ
        に指を差し教えてくれた。
        2~3軒向うにある木造二階建の建物らしい。

        「ありささ~ん、こっちだよ~!」

        待ち侘びていたのであろう。二階の窓から俊介が手招きをしていた。

        「あ、本村はん、こんにちわぁ~、お待ちどしたか?」
        「ああ、待ちくたびれたよ~」
        「まあ」
        「ちょっと待って。すぐに下に降りるから」

        まもなく、ありさの目の前に愛しい男の顔が現れた。

        「よく来てくれたね。かなり探したんじゃないですか?」
        「いいえ~、すぐに分かりましたぇ~」

        俊介に誘われて下宿に入ろうとした時、ありさは子供たちの遊ぶ姿を眺
        めながらにっこり笑って呟いた。

        「懐かしいわぁ~、うち最後にケンパやったん、いつやったやろか・・・」
        「ケンパ?」
        「あれ?本村はん、ケンパ知りまへんのんかぁ?」
        「石けりじゃないの?」
        「うちとこ(私のところ)では、ケンパゆ~んどすぇ。何でかゆ~と、
        片足でケンケンして、両足でパッとつくから『ケンパ』ゆ~んどすぅ~」
        「はっはっは~、なるほど。動作が語源になったんだね~」

        「さあ、狭いけどどうぞ。ここが僕の下宿だよ」  
        「おじゃまさんどす~、ほな、上がらせてもらいますぇ」

        俊介の部屋は6畳ほどあるのだろうが、驚くほど書物が多いため4畳半
        くらいにしか見えなかった。
        だが、ありさの訪問に気を遣って片付けたのか、整理整頓はよく行き届
        いていた。

        「お茶を入れるから座っててね」
        「やあ~、ごっつい本の数やわぁ~、本村はん、ほんまに勉強家なんや
        なぁ~」
        「そんなことないよ。それはそうとその『本村はん』て苗字で呼ぶのや
        めてくれないかな?俊介でいいよ」
        「お名前で呼んでもよろしおすんかぁ?」
        「うん、僕だってありささんって呼んでるだろう?」
        「あのぅ・・・」
        「なんだい?」
        「あのぅ、俊介はん・・・」
        「どうしたの?」
        「うちのこと、『ありさ』て呼び捨てに呼んでくれはらしまへん?」
        「うん、いいよ・・・。ありさ・・・」
        「やぁ~、嬉しおすわぁ~」

        「ありさ・・・、君のこと好きだよ・・・」
        「・・・・・」

        俊介に好きと打明けられて、ありさは胸に嬉しさが込み上げて言葉に詰
        まってしまった。

        「君が大好きだ・・・」

        俊介は同じ言葉の前に『大』の字をつけてもう一度囁いた。
        そして優しく抱き寄せた。

        「うちも・・・、うちも俊介はんが大好きおすぇ・・・」
        「ありさ・・・」

        俊介はありさを抱きしめながら唇を求めた。
        俊介の求めにありさはそっと瞳を閉じて応えた。
        ありさにとって初めて心を許した人に捧げる唇・・・それは甘く切ない
        味がした。

        「ありさ、君がいとおしい・・・」
        「あぁ・・・嬉しい・・・、うちも好きどすぇ・・・」

        唇を重ねているうちに、ありさの頬に一筋の涙が流れた。
        その涙は俊介の頬までも濡らした。

        「ん?ありさ、どうしたの?」
        「ううん・・・何でもおへん。ただ嬉しいだけどす・・・」
        「何か辛いことでもあるんじゃないの?僕に話してごらん」
        「おおきにぃ・・・うっうっ・・・うううっ・・・」

        ありさは俊介にしがみ付き号泣してしまった。
        俊介は無言で抱きしめながら、ありさの額に頬擦りをした。

        「辛いことがあるのなら僕に言ってごらん。話せば少しは楽になるかも
        知れないよ」
        「す、すまんことどすぅ・・・取り乱してしもうて・・・」
        「いいんだよ。僕にならいくら甘えたって・・・」

        ありさは涙目で俊介にそっと告げた。

        「うち・・・舞妓やめたいんどす・・・、もう毎日が辛うて・・・」
        「舞妓さんってほんと大変そうだね。どうしても合わないと思ったら、
        辞めてしまって別の職を探してみればどうなの?」
        「それが無理なんどす・・・」
        「どうして?これからの時代は女性も社会に進出していくことになって
        いくと思う。何も嫌な職業にしがみ付いていることはないと思うんだ」
        「ところがそうはいかへんのどす。とゆ~のも、うちが十六で舞妓にな
        ってからとゆ~もの、屋形が衣食住からお稽古代、それにお小遣いまで、
        ごっついお金をうちに出してくれたはるんどす。せやよって、屋形に恩
        返しせんとあかんのどす・・・それが祇園のしきたりなんどすぅ・・・」
        「で、稽古が厳しくて嫌なの?それともお客に酌をしたりするのが嫌な
        の?」
        「いいえ、そうやおへん。お稽古もお客はんへのお酌も別に辛ろうおへ
        ん・・・」
        「じゃあ、何が辛いの?もし良かったら言って?」
        「いいにくいけど・・・」
        「・・・」

        「俊介はんは、『水揚げ』てご存知やおへんか?」
        「言葉は聞いたことがあるけど、具体的にどんなことなのかは・・・」
        「『水揚げ』ゆ~たら、芸妓や舞妓が旦那はんをとることなんどす。もっ
        とはっきりゆ~たら、好かんお方であっても、ごっついお金を払ろてく
        れたはったら、その旦那はんと夜を共にせなあかんのどすぅ・・・」

        俊介はありさの話を聞いて愕然とした。

        「『水揚げ』ってそういうことだったんだ。で、現在、ある人に好かれて
        しまっているんだね?」
        「そうなんどす・・・、何でも会社をようけ持った会長はんらしいんや
        けど、うち、その旦那はん、嫌で嫌でしょうおへんのどす・・・、顔見
        るたびに辛ろうて、辛ろうて・・・」
        「そうだったんだ・・・」
        「あ、堪忍しておくれやすな。うち、しょうもない話してもうたわ・・・」
        「もしもね?」
        「はあ・・・?」
        「もしも、舞妓の君を身請けするんだったらどのくらいのお金がいる
        の?」
        「え?身請け!?どのくらいかは知らへんけど、おとろしい(恐ろしい)
        ほどのお金がいると思いますぅ・・・、せやけどそんなん無理や・・・、
        俊介はんのその気持ちだけで、うちほんまに嬉しおすぇ~」
        「ありさ・・・」
        「しゅ、俊介はん・・・」

        俊介はありさを抱き寄せ、そのまま畳に押し倒してしまった。
        交す熱いくちづけに、ありさは心が溶けてどこかに流れて行きそうに思
        った。
        いや、溶ければいい。
        溶けてどこかに行ってしまいたいと・・・。

        「ありさ、君を遠くに連れて行きたい・・・」
        「嬉しおすぅ~、俊介はんがそう思てくれはるだけでも嬉しおすぇ~」
        「ありさ・・・、君を愛してる・・・例えられないほどに君が好きだ・・・」
        「俊介は~ん・・・」

        俊介はありさの浴衣の紐を解くと、染みひとつない珠のような白い肌が
        現れた。
        美しいふたつの隆起・・・俊介はそっと指を滑らせた。

        「あぁ・・・俊介はん・・・」

        俊介は隆起を丘の下から上へと優しく撫で上げ、頂きにある桜色のぼん
        ぼりを指で摘まんでみた。
        ビクリと敏感に反応するありさ。
        俊介の唇は細い肩先、白いうなじ、ふくよかな乳房、そして脇腹へと這
        い回る。
        ありさの肌はほんのりと赤みが差し始めている。
        ありさは瞳を閉じて、愛される歓びをそっと噛み締めた。

        俊介は再び唇を重ねた。
        舌がつるりと滑り込みありさの舌と絡み合う。
        求め合う唇と唇、求め合う身体と身体、求め合う心と心・・・。
        俊介の指先は浴衣の裾を割って、太股を撫で上げる。

        「あぁ・・・俊介はん・・・」

        指は太股から脚の付根附近まで伸びる。

        「あああぁ・・・」

        ありさの消え入りそうな切ない声が、俊介の昂ぶりに一層拍車を掛ける。
        付根附近を撫でていた指が、一気に丘に駆け上がる。
        小高い丘には薄い目の若草が繁り、拓哉の指がゆっくりと旋回する。
        指は数度旋回して、丘の裾野へ進んで行く。

        「ああっ!」

        裾野には小川が流れ、水嵩がすでに増していた。
        (クチュ・・・)

        「あああ・・・俊介はん・・・嬉しおすぅ・・・」
        「ありさ、君が愛しい・・・」
        「ああん・・・俊介はんにそこいろてもうて嬉しおすぅ・・・」
        「ありさ・・・」

        川の土手から水流の真ん中に指は埋没してしまった。
        そして川の流れに沿って擦りあげる。

        (クニュクニュクニュ・・・)

        「あんあん~、ああん、ああっ、た、俊介はん、気持ちようおすえ~」
        「ああ、ありさ・・・、僕は、僕は君が欲しい・・・」

        俊介はそう言いながら、浴衣の裾を大きく開いて、ありさの脚を折り曲
        げた。
        そして間髪入れず一突き!

        (ズニュ~!)

        「あああっ!」

        俊介はありさの脚をしっかりと抱えあげ、海老のような格好にさせて激
        しく突き上げた。
        ありさの清流にはすでにおびただしいほどの水が満ち溢れ、俊介の怒張
        したものを容易に奥まで受入れた。

        (グッチョグッチョグッチョ・・・)

        下宿の昼下がり、子供たちもどこかに行ったようで恐ろしいほどに静ま
        り返っていた。
        そんな中で聞こえる音と言えば、ふたりの愛が重なり合う時に発する水
        音だけであった。

        「うふふ、ありさ、すごくいい音が聞こえて来るね」
        「ああん・・・そんなこと言わはったら、うち恥ずかしおすぇ・・・」
        (グッチョングッチョングッチョン・・・)

        俊介は往復運動をいったん止めて、ありさを起こした。
        ありさは俊介との結合をそのままにして、両手を引かれゆっくりと起き
        上がる。
        俊介はありさを膝の上に乗せたまま、ありさの首筋に手を廻し、そっと
        くちづけを交した。
        そして俊介の手はありさの臀部をしっかりと抱えて、腰を激しく突き上
        げた。

        「いやぁ~ん、あんあん~、俊介はんがふこう入って来はるっ~」

        この時、俊介はかなりの昂ぶりをみせていたため、天井を向いてそそり
        立つほどに硬く、そして大きく膨らんでいた。
        そんな俊介の興奮がありさにも肌を通して伝わったのだろう、ありさは
        堪らなくなって泣き叫んでいた。

        (ズッコンズッコンズッコン・・・)

        俊介の強靭な腰は疲れることを知らなかったが、かなり限界に近づいて
        いた。
        ありさも同様に絶頂が訪れようとしていた。

        水揚げ以降数度に渡る丸岩との契りでは、味わえなかった真の女の歓
        び・・・
        ありさは俊介と巡り合って、ついに知り初めたのであった。

        「あっ、あっ、あっ、俊介はん、何か変や~、何か変や~、身体が、身
        体がぁ~、あああっ!いやあ~~~!!」
        「うっ、うぐっ!うぉ~~~~~!!」

        ありさは俊介に抱かれて、初めて愛すること愛されることを知り、感激
        のあまりむせび泣き濡れた。
        ふたりはともに果てた後も離れることもなくずっと抱合っていた。

        「俊介はん、また会うてくれはるんどすかぁ・・・」
        「もちろんだよ」
        「嬉しおすぅ~、ほな次の日曜日にまた・・・」
        「うん、いいよ。次の日曜日、どこかに遊びに行こう。じゃあ、また連
        絡をするから」






野々宮ありさ
 





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