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地下スタジオのアイドル? その1























(1)
 


「雪音、お父さんを許してくれ……」

ひとりになっても、耳にこびりついたままの声。

その声に後押しされるようにあたしはうなづいてみせる。
そして服を脱いでいった。
残りの2枚、ブラジャーとパンツも一気に脱ぎ去ると足もとの紙袋に片手を突っ込んだ。

取り出したのは紫色をしたビキニの水着。
軽くて薄くて、顔が真っ赤になるくらい生地の面積が小さくて……
とても人前には出られないエッチな水着。

それなのに、あたしはその水着を身に着けていく。
……着けないといけないの。

裸のままブラを胸にあててみて、紫色のパンツを腰の前で拡げてみせて……
悲しくて泣いちゃいそうな自分に、無理やり『がんばれエール』を送って……

女の象徴の部分だけを頼りない布切れで隠すと、鏡にその姿を映し出していた。
よそ見をしながらチラリと変態女の子を観察してみる。

「ふふ……こんな格好、恥ずかしいよね。
でも……がんばらないとね……」

紐と呼ぶのに相応しい薄布に零れそうな乳房が挟み込まれている。
それを両手の指が微調整していく。
白くて弾力のある丸い塊の中心を凹ませて、このままだと晒されちゃう乳首とその周囲の乳輪になんとか布を押し当てた。

そして、同じく紐でしかないショーツを恥ずかしい割れ目に沿わせて整えた。
伸縮性のある生地の下に人差し指を入れると、Tバックになってるお尻の方までぴったりと中心線に合わせていく。
太ももをひらけば、ぷっくり膨らんだ大陰唇は見えちゃってるけど、さすがにそれは隠せない。
女の子の大切な部分だけ、紫色の細いラインを引っ張っただけだから。

「雪音……こっちは準備ができたよ」

ドアの向こうから申し訳なさそうなお父さんの声が聞こえた。

弱々しくて、頼りなくて……
父親らしい威厳なんか全然なくて……
それでも、雪音のたったひとりの大切な家族……

あたしは鏡に向かって水着のファッションショーをする。
クルリと一回転してみせて、涙目のままにこりと笑う。

「せめて、綺麗に撮影してね。お父さん……」



「雪音……すまない……」

ドアをひらいた先は、何もかもが寒々とした部屋だった。
追い打ちを掛けるように、忘れ去りたい言葉が鼓膜に上塗りされる。

「もうお父さんったら……
それは言わないって、約束したでしょ」

「……すまない」

「はあ~、また言ったぁ。ダメじゃない。
……もういい。さっさと始めよう。ね、お父さん」

「すま……いや……ああ」

お互いに微妙に喉を震わせた声が、コンクリートに包まれた部屋の中で反響している。

据え付けのカメラを覗きながら、お父さんの黒眼がチラチラとあたしを覗いた。
覗いては慌てて足もとに視線を落した。
あたしは、それに気付かない振りをしてカメラのレンズと向き合うように立つ。

一段高くなった真っ白な床の上。
床だけじゃない。
背中の壁も両サイドのボードも、全部真っ白。
そして、天井からとカメラの左右からも強いライトの光で、裸よりエッチな雪音の身体が照らし出されている。

「それじゃあ、いつものポーズから」

か細いお父さんの声が、レンズ越しに指示を出した。
その言葉に反応するように、身体が勝手に覚えこまされた動作を始める。

気をつけの姿勢から、左足のひざを外側に向けてひらいていく。
腰をちょっと捻って左肩を前に張り出させて、斜めから覗き込むようにカメラを見つめて、はい笑顔。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

そのままのポーズで、両手で肩にかかる髪をかき上げてバストを強調させて、アゴを上げ気味に、はい挑発的な笑顔。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

カメラに向かって、Tバックのお尻と背中を見せて振り向くように上体だけ捻って、くちびるを尖らせて、はい笑顔。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

まるでプログラム通りに動くロボットのように、あたしはポーズを決めていく。
それを、黒くて丸いレンズが乾いたシャッター音を響かせながら焼き付けていく。

これが普通のビキニだったら……
それでも、親子ふたりっきりでこんな撮影をしてたら大変だけど……

お尻もおっぱいも大切な処も、全然隠せていない水着でポーズを決めているなんて、もっともっと大変だよ。
大問題だよ。絶対におかしいよ……普通なら……

でもその間、お父さんは無言でカメラを操作している。シャッターを押している。
額に貼り付いた汗も拭わずに、暑くなんかないのに肌寒いのに……

……まるでロボット。

そう。あたしが感情という言葉を忘れたロボットだったら、お父さんは狂気という感情に支配されちゃった壊れたロボット。

「いいねぇ」とか「最高だよ」とか、全然うれしくないけど、声くらい掛けてくれたっていいのに……
実の娘が泣き叫びたくなるのを必死で我慢しているのに……

「少し、休憩しようか?」

振り絞って出した声は……たった、それだけ……?!



目次へ  第2話へ




地下スタジオのアイドル? その2























(2)
 


あたしは、バスタオルを肩に掛けて椅子に座っていた。

お父さんは、被写体のいない真っ白な壁に向かって機材を調整している。
因みに、お父さんのお仕事は写真屋さんだったりする。
創業者は、もう死んじゃったけどあたしのおじいちゃん。
よくショーウインドに七五三や結婚式の写真が飾ってある昔ながらの写真屋さんって感じかな。

そしてこの部屋は、お店の地下に造られた特設の撮影用スタジオ。
広さは……うーん……
あたしのお部屋の倍は有りそうだから、畳でいうと8畳くらいかな?
それと隣接する着替え室。
こっちは元々撮影用の資材置き場だからもっと小さくて……畳2枚くらい。

あたしが中学生だった頃に、『1階のスタジオでは僕の求めている写真が撮れない』とかなんとかお父さんが言いだして、お母さんが止めるのも聞かずに強引に造っちゃった。
その時のことは今でもはっきりと覚えている。
自分の趣味の世界に没頭するお父さんを見て、陰でお母さんは泣いていたんだよ。

当然だよね。
今どき街の写真屋さんなんて流行らないものね。
来てくれていたお客さんだってどんどん減っちゃって、お店だって赤字だったのに……
だからお母さん本当に怒っちゃって、実家に里帰りしたまま帰って来なくなっちゃった。

もう2年になるんだよ。
お母さんがお父さんに愛想を尽かしてあたしの家族が崩壊して、あたしとお父さんだけの父子家庭が2年間も……!

それなのに……
そこまでして作ったスタジオってなによ!
お父さんの求めている写真って、娘の卑猥な姿をシャッターに収めることだったの?!
そんな写真を現像しては、エッチな目をした男の人たちに売り渡すことだったの?!

家族ふたりが暮らしていくのには、仕方ないって思っているけど……
危なっかしいお父さんだから、雪音が協力してあげないといけないことも理解しているけど……
ちょっとだけ、心の中で叫ばせてよ。

『お父さん、ズボンの前を膨らませないで!』

……て、いけない。
雪音は感情のないロボットだったんだよね。
それなのにあたしったら……

「あ、お父さんが呼んでる。行かなきゃ……」



あたしは肩に掛けていたバスタオルを振り解くと、再び白いステージに立っていた。
隣には、背もたれ部分がくり抜かれて木枠だけ残された木製の椅子。
そしてお父さんはというと、写真集をペラぺラとめくりながら構図を考えている。

あたしと同世代の女の子たちが、卑猥なポーズをしながら笑顔を振りまいている写真。
初めて見たときは、同性なのに顔が真っ赤になっちゃって心臓もバクバク鳴っちゃったけど、今は結構平気かな。
だってこの後、雪音も同じポーズをさせらされるしね。

「それじゃあ、始めようか。
まずは、その椅子を跨ぐようにして背もたれに向かって座ってみて」

「……うん」

あたしはお父さんが見守る中、背もたれの先端に両腕を乗せたまま、太ももを120度くらいに拡げて椅子に座った。
それを正面からカメラのレンズが捉える。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

背中を反らし気味にして突き出したおっぱい。
大きく拡げられて隠したくたって隠せない太ももの付け根。
縦に走る紐に割れ目の中だけ隠してもらった、大陰唇丸出しの女の子の部分。

容赦なく撮影するレンズにも、お父さんの目にも晒させた。
全然嬉しくないのに、ホントはものすごく恥ずかしいのに……
雪音がお仕事にだけ作る特製の笑顔のおまけつきで……

「次は……そのぉ……すまない、お尻を……」

「はい。次は、お尻ね」

あたしは、お父さんからの指示を復唱すると座っていた椅子を逆向きに置いた。
そして、さっきと同じように腰掛けながらお尻を強調するように後ろに突き出した。

背中をもっと湾曲させて、Tバックのお尻を座席部分からはみ出させる。
それを待っていたかのように、連続したシャッターの音が響いた。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

「雪音、水着を……」

「うん、わかった。……最初は……半分くらいでいいよね?」

「ああ、すまない……」

あたしは腰を浮かせて、お尻に喰い込んだTバックを下していく。
ふたつ並んだ割れ目の真ん中あたりに、紫色の紐で真横にラインを引く。
おっぱいに比べてしっかり大人になっちゃったお尻のお肉を、当り前のようにお父さんに見せながら身体を固定する。

背中越しにシャッターの音を聞いて、カメラに写っていない時だけくちびるを真一文字に結んで……
真っ赤に火照ってくる顔を関係のない空想でごまかして……

「雪音」って呼ばれて振り向いて、その瞬間だけ微笑んじゃった。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……



目次へ  第3話へ




地下スタジオのアイドル その3























(3)
 


「雪音。次はブラジャーを……」

だんだん、お父さんの声に張りが出てくる。
あんなに弱々しかったのに、コンクリートの壁にぶつかってはコダマしている。

あたしは、復唱するのを止めて背中に両手を回すと蝶々結びを解いた。
紐のブラジャーを引き抜いて床に落とした。

「よおし。そのまま……」

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

上半身裸にされた背中を、カメラのレンズが舐めるように撮影していく。
その間あたしに出来ることは、背もたれに乗せた両腕に無防備な乳房を押しつけることだけ……

「雪音。次は水着の下も脱ぐんだ。脱いだら、抜き取らずに片足に引っかけて……」

カメラを覗き込むお父さんから、リズムよく恥ずかしい指示が飛んだ。
もう写真集なんか参考にしていない。
自分の判断で、自分で決断して、娘のあたしをどんどん淫らな姿に変えていく。

あたしはレンズに背中を向けたまま立ち上がる。
お尻の真ん中で引っ掛かっている水着のパンツを引き下していく。
下ろしながら、背中や肩がブルブルって震えるのをなんとか我慢した。
床に落ちているバスタオルに何度も目をやっては、そのたびにぎゅって目を瞑った。

大丈夫だよ、雪音。
恥ずかしくなんて全然ないよ。
だって、ヌード撮影なんだから。
あたし自慢の身体を涎を垂らしながら見てくれるお客様が、たーくさん待っているんだから。
だからだから……ね♪♪

そして、言われた通りにする。
右の足首に紫色の輪っかを残したまま、もう一度背もたれに向かって座り直した。
丸裸のまま上半身を背もたれに乗せて、お尻をレンズに向ける。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

カメラのレンズが、はしたない雪音を笑った。
その笑い声に触発されたのか、頼りなかったお父さんに狂気の色が射し始めている。
声に……息遣いに……

「はあぁ、はあ、いいぞぉ。綺麗だ雪音。
そのまま、顔をこっちに向けて! そうだぁ、その表情! OKだ!
……次は、立ったまま正面を向いて。
おっと、その前に……」

そう言うとお父さんは細長い絆創膏を1枚、後姿を晒しているあたしに手渡した。
別にけがをしているわけじゃない。
これも恥ずかしい小道具のひとつなの。

「お父さん、いつものように貼ればいいのね?」

「ああ、肝心な処が見えないように頼むよ」

「うん……わかってる……」

あたしは、背中を丸めながら下腹部を覗き込んだ。
縦に走る恥ずかしい裂け目と、先端で顔を覗かせている雪音の感じるお豆。
毛穴だけ残してきれいさっぱり剃り落した、つるつるの恥ずかしい丘。

まるで幼い女の子みたい。
ううん、心と身体は大人の不釣り合いな変態女の子かな?

「雪音、まだかい?」

お父さんの焦れた声が聞こえた。

あたしは、少しひらき気味の割れ目を左指で閉じ合わせると、上から絆創膏を貼り合わせた。
背中をもっと丸めて、ひらいた太ももの奥に顔を近づけてチェックする。
ちょっと尖り気味のクリトリスも、ピンク色をした粘膜もヒダヒダも……
割れ目の先端から股の奥の方まで念入りに観察してOK……かな?

でもね。そこまで撮影にこだわっているんだったら、モデルのことも考えて欲しいな。
やっぱり、コンクリートがむき出しの地下室ってどんなに空調をいれても冷えるのよね。
それも、こんな姿で長時間撮影されるとね。

できればお手洗いとか……
ちょっと、もよおしたくなることもあるし……
でも……ううん、止めとこ。
だって、おしっこをするたびに絆創膏を貼り替えてたら、もっともっと惨めな気分になりそうだもんね。



「お父さん、お待たせ~♪」

振り向いた先のレンズが、ぐにゃりと歪んだ。
意識して甘い声を出して、意識して微笑んだのに、雪音の瞳だけが逆らっちゃった。

でも、お父さんは気付いていないみたい。
だって、次のポーズを急かすんだもん。

あたしは、絆創膏だけの頼りない下半身をレンズに晒しながら、両手のひらで胸を覆った。
震える乳房を真っ平らになるくらい押さえつけていた。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

「雪音、次!」

息を弾ませたお父さんが叫んだ。

それを合図に手のひらが浮いた。
雪音の乳房がふくらみを取り戻して、両手の人指し指だけが取り残された。
胸をグッと前に押し出した。
乳首を指一本で隠したまま、なにも楽しくないのにくちびるを緩めた。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

それを見て、カメラがまた笑った。

悔しくて哀しくて。あたしも、負けるもんか! って気持で両足をひらいてみせた。
胸のポッチを押さえたまま、絆創膏だけの女の子の部分をカメラにもお父さんにも見せてあげた。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

頭がクラクラする。
上に引き上げたほっぺたのお肉が痙攣している。

もう、顔だけじゃないよ。
全身が火照って熱いの。
恥ずかしい感覚を通り越して、自分のしていることが全部夢の中みたい。

そんなあたしに、お父さんから最後のポーズの指示が出た。

「雪音、床に腰をおろしてМ字開脚だ」って……

お願いだから絆創膏さん。
雪音のあそこから離れないでね。お願い♪♪
これでもあたし、バージンなの……だから……ね♪♪



目次へ  第4話へ




パワフルガール 雪音?























(4)
 


それから、あっという間に1年が過ぎちゃった。

相変わらずお母さんの里帰りは続いているし、頼りないお父さんはいつまで経っても頼りないまま。
でも、そんな環境だからかな?
あたしは、強く逞しく成長したと思うよ。
身体もちょっとばかりナイスバディになったし、心はお父さんの分まで超前向きパワフルガール?!

そうよ、女の子は適応能力が高いの。
いつまでも、くよくよしていられないんだからね。
ただし、バージンはそのままんまだけど……



そんなある日のこと……
あたしはスタジオ横にある事務机で、店番兼学校の宿題を片付けていた。
お父さんは、お店の奥でカメラをバラバラにしたりレンズを磨いたりしている。

ここは1階にある本当! の写真スタジオ。
入り口には大きめのガラスケース付きのカウンターが置いてあって、中にはいろんな種類のレンズや三脚なんかがぎっしりと詰まっている。
そして、壁に設置したショーケースや、その上には最新式の一眼レフカメラから時代に取り残されたフィルムカメラまで、こちらもまたぎゅうぎゅう詰めで並ばされている。

でもねぇ。あたし見たことがないんだな。
このレンズ君やカメラさんが、売られていくところ……
お父さんが、羽の付いた刷毛でお掃除している姿はしょっちゅう見かけるんだけど……

「ねえお父さん。この前のネガ、いくらで売れたの?」

あたしは、友だちから借りたノートを丸写ししながらお父さんに話しかけた。

「うん……8万円だったかな……
昨日の夜、メールが入ってたよ」

「えっ? たったそれだけ……?!
あたし、ものすごく張り切ってがんばったのに……」

「仕方ないさ。お父さんの信用できる人を通じて、絶対に外部に流出させないって条件なんだから。
個人でポケットマネーをポンと8万ってのは、結構すごいと思うよ。
僕だったら到底無理だね」

「到底無理って……ひっどぉーい!
お父さんは愛娘のヌード写真の価値が8万円以下だっていうの!
あーぁ、あたしだったら、『雪音の肌を拝むなら、100万円でも安い』とかなんとか……えへ、ちょっと自惚れかな?」

あたしは舌を覗かせながらお店の窓に目をやった。
夕暮れ時の弱りかけた日差に、通りを歩く人影は足長おじさんになる。

当然、ここ『北原写真館』の中も薄暗くなってきた。
因みに北原ってのは、あたしとお父さんの苗字が『北原』だから。
そして、あたしの名前は、北原雪音(きたはら ゆきね)
お父さんは、北原武雄(きたはら たけお)

ふふっ、でもお父さんの『武雄』って、全然合ってない気がするというか名前負けしているよね。
はっきり言って……

「いいなあ、並木さんのとこ……お客さんが、お店の外まで列を作ってるよ。
今夜も大繁盛だね」

あたしは、北原写真館の斜め向かいにある、そば屋さんを指さしていた。
屋号は『そば屋 並木』

その隣には婦人服のお店。その隣のシャッターが下りたままの元八百屋さんを飛び越えてお肉屋さん。続けてクリーニング屋さん。
そんな感じで、駅前につながるこの通りは昔ながらの商店街になっている。
……といっても、駅前の再開発や街の郊外に出来たおっきなショッピングモールの影響で、このあたりのお店も半分はシャッターが下りたままになっているけどね。
俗に言う『シャッター通り商店街』って感じかな。

「そう言えば並木さんのとこ、先月からアルバイトで女の子を雇ったらしいね。
僕はまだ会ったことがないけど……」

「ああ、その子ならあたし会ったことがあるわよ。
まあ、目が合ったから会釈しただけなんだけど……
いつも4時くらいにお店に入って、接客とかしている……えーっと、名前はなんて言ったかな……?
たしか……」

「早野有里……だろ」

「そ、そうよ、早野さん……って! どうしてお父さんが知っているのよ?!
今、会ったことがないって言ってたじゃない。
まさか、こっそり覗いていたんじゃ……?」

あたしは、振り返るとジロリと睨んだ。
でもお父さんは、必殺視線ビームを全身に浴びながら愛おしそうにレンズを撫でている。

「ま、まあ、いいわ。
……それよりも、女の子をひとり雇ったくらいでお客さんが押し寄せるなんてどうなっているのかしら?
このお店にだってこんな可愛らしいマスコットガールがいるのに、さっきからお客さんゼロじゃない!」

「いや、ひとり来たよ」

「あれは、回覧板を持って来たお隣のおばさんでしょ! ホントにもう……」

あたしはホッペタを膨らませると、再び行列のできるそば屋を眺めた。
ちょうどその時だった。
擦りガラスの引き戸をひらいて噂の少女が姿を現した。

「お父さん、見て! あの子よ、ほらほら」

「ほー、結構可愛いじゃないか。というより、かなりのレベルだな。
テレビで歌ってそうなアイドルよりこっちの方が上かもしれないぞ。
なんといったって、化粧っ気なしのすっぴんであの美形だしな」

「そうよねぇ。悔しいけどあたしといい勝負の美人かも……
それに、オレンジのエプロン姿にポニーテールの髪形って、なんだか男の人のツボに嵌まってそうで……って!
やだぁ、お父さん。鼻息が荒いよ……!」

あたしとお父さんは、窓の端に身を隠しながら覗いていた。
ふたり一緒に、あたしの頭の上にお父さんのあごを乗っけたまま、美少女と途切れないお客さんの姿を追いかけていた。

だからかな?

今日初めて訪れてくれたお客様に、全然気付かなかったのは……



目次へ  第5話へ





ピンクの傀儡子参上 ?!























(5)
 


「えーっと、それでご用件は……?」

「……あ、あの……んん」

お父さんがまた同じセリフを繰り返した。
それに合わせるかのようにお客様も、喉の奥で言葉にならない声を出す。
それも2度目じゃない。これが3度目。

荒い鼻息に混じった女の人の細い声に、あたしが気が付いてからもう10分くらい経過している。
その間カウンターを挟んで、お父さんとお客様は見つめ合ったまま。
無駄にふたりの時間だけが流れていく。

あたしはお父さんの横腹をヒジで突きながら、そのお客様?を観察していた。

年齢は30代後半かな。
ちょっとウェーブのかかった長い髪をロングレイヤーにまとめた結構美人な女性。
まあ、美人にもいろいろあるけど、どちらかというと面長な顔立ちに切れ長の瞳だから、モデル顔かな?
きっと学生時代は、男子生徒代表のマドンナさんだったりして。
でも、そんな魅力的な美人さんなのに、もったいないよね。
そんな思い詰めた表情をしていたら。

「あ、あのお客様、ご、ご用件を仰っていただかないと……」

お父さんの声が上ずっている。
おでこに玉の汗を浮かべて、チロチロとあたしの方に目で合図を送ってくる。

でも、どうしようかな?

愛娘の貴重なヌード写真を、あっさり8万円で売り渡しちゃうお父さんだし……
そうはいっても、いつまでもこの人に居座られてたら、あたしの丸写し宿題もはかどらないし……

仕方ないわね。
ここは、あたしがビシッと収めてあげる。

「お客様! 当店は写真館でございます。
ご用件がないのであれば、どうかお引き取りくださいませ」

あたしは、うつむき加減の女の人に少々棘のある声ではっきりと言ってあげた。

突然の若い女の子の声に驚いたのか、その人は顔を上げた。
そのまま乾いたくちびるを震わせて呟いた。
目を虚ろにして、真っ青な顔で……

「ピンクの傀儡子……さん」って……

有り得ないと思っていた単語を……
隣でお父さんが腰をヘナヘナとするのを支えながら……

あたしも呟いていた。
「世の中には、不思議が満ち溢れてる」って……



「それで貴女は……いえ、久藤さんは、僕をピンクの傀儡子と知って来られたのですね?」

「……はい。そうです」

その後、あたしたち3人は例の地下スタジオに場所を移動した。
リサイクルショップで調達した塗装の剥げかかった丸いテーブルを囲んで、お父さんと久藤律子(くどう りつこ)さんが真剣な表情で話し込んでいる。

あたしは、ふたりの話に聞き耳を立てながら愛用のスマホを見ていた。
ブックマークから『ピンクの傀儡子』を探すと、画面にアップする。

突然流れ出した『月○仮面』のテーマ曲と共に現れたのは……

『今すぐお金が入用の貴女!! ピンクの傀儡子が参上致します!!』

という、画面いっぱいに映し出された悪趣味なピンク色のロゴと、その下に続く読むのが面倒臭くなりそうな長々とした説明書き。

大まかに言うと、お金の欲しい人はヌード写真を撮りませんか~って……
ただし女性だけですよ~男性はご遠慮くださいね~って……
信用ある個人の方にしか売却しませんから安心ですよ~って……
因みに取り分は、山分けですよ~ヒフティーヒフティーですよ~って……

まあ、こんな感じかな。

ただ、前から気になってたんだけど、これって悪い人たちが経営している金貸し屋さんと間違われないのかな?
ううん、それ以上にこのサイトを見て人生の大決断をする女性って……
やっぱり、世の中には不思議が満ち溢れてる……かな。

あたしはスマホから目を離すと、小さく欠伸をした。

「……ということは、それなりのお覚悟を持ってと理解しても構いませんね。
それで……あの、失礼ですが、どの程度ご入用で……?」

「い、いえ……違うんです。
私……お金が欲しくでここへ来たわけではありません。ただ……」

「ただ……?」

お父さんの身体が前のめりになって、思わずあたしも耳を傾けていた。

「あ、あの笑わないでくださいね。
わ、私……主人の秘密を見ちゃったんです。
そ、そのぉ、書斎でパソコンを見ながら……自分を慰めているところを……
それで主人が仕事で留守の間に、いけないこととは思いながら、こっそりパソコンをひらいてみると……その……若い女の子の水着の写真が……」

「要するに、ジュニアアイドルの写真集ですね。
それで、その……大変失礼なこととは思いますが、よ、夜の営みはどの程度の間隔で……?」

「えっ?! よ、夜の……ですか?」

訊いているお父さんが真っ赤になって、訊かれた久藤さんも顔を赤くしている。
ついでにあたしはというと、目を輝かせながら何も映っていないスマホをじっと見つめている。

「そ、それがここ半年ほど一度もなくて……
以前は少なくても週に一度は愛してくれて……」

「それは、それは……お辛いでしょうね」

お父さんが同情するように何度もうなづいている。
でもちょっと変だよ。これじゃカウセリングだよ。

「それで、お願いしたいんです。
ピンクの傀儡子様、どうか私の写真を撮ってはいただけませんか?
私の……律子の恥ずかしい写真を撮ってください!
費用はいくらでもお払いいたします。主人の……あの人の心を……うっ、うぅぅぅぅ……」

律子さんは、目頭に指の背をあてたまま嗚咽を繰り返している。

話していることは、なんとなくわかるけど……
でも恥ずかしい写真を撮ったからって、旦那様の心を鷲掴みにできるのか、ものすごく微妙だけど……

でもでもでも……いいかも♪♪

費用はいくらでもってことだし……
だったらあたしたちの薄っぺらいお財布も潤うし……
それにそれに……サイトを立ち上げて丸2年、初めての記念すべきお客様だし……

「今から撮影します?」

あたしは営業スマイルで訊いていた。



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