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見果てぬ夢  登場人物紹介























  【登場人物紹介】


  岡本 典子(旧姓 坂上)   

本作品のヒロインで、夫と共に築き上げたパン屋を営んでいる。25才 非処女
(ただし、現在は都合により休業中)
夫の夢の詰まった店舗と再開発に揺れる愛する街を守るため、日夜懸命な努力を積み重ねるも報われず、苦渋の決断の末、ある男に自らの身体を差し出すことになる。
高校時代は、我が校始まって以来の美少女学生と噂されたこともある。


  岡本 博幸

典子の夫で『ベーカリーショップ 岡本』の店主 既に他界
3年前、典子と知り合い、その後結婚。
長年の夢だったパン屋の経営を典子と共に苦労の末実現する。
だが、店の経営が安定した頃持ち上がった街の再開発計画に翻弄され、体調を崩し世を去る。


  河添 拓也 

時田金融グループに勤める会社員で、典子の元恋人。26才
高校時代はサッカー部に所属し、マネージャーを務めていた1年後輩の典子とは、そこで知り合い、お互い深い関係になったこともある。
時田金融では、出世街道を突き進むも上層部の陰謀に巻き込まれ、左遷。
元恋人の典子の身体を利用して再起を目論んでいる。


  謎の人物

どうやら、典子とは知り合いらしいが、氏名は不詳。
暇なときは、自作の妖しげなパンと共に店番をしていることもあるが、時田金融に潜入したり、全国美少女ウォッチャーの旅を計画したりと、謎の多い人物。


  篠塚 唯郎副社長

時田金融グループ、ナンバー2の実力者。
現社長、時田謙一のワンマン経営に批判的で、密かに反旗を目論んでいるという噂も……
河添を左遷した張本人。



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典子の見果てぬ夢


















美少女たちが、羞恥の宴に涙を流す半年ほど前
偶然にも同じ街から始まる、もうひとつの羞恥の物語が存在した。







(1)


3月 30日 日曜日 午後8時  岡本 典子



シュル……シュルル……スス……ススス……

私は服を脱いでいた。
身に着けているものを引き剥がすようにして一枚一枚……

若葉の芽吹きに合わせた、淡いグリーンのブラウス。
遠い昔の初恋の思い出に浸りたくて、無理をして履いた、チェック柄のプリーツスカート。

ボタンを外しファスナーを引き、床にはらりと落ちた物を軽くたたんでは、洗面台の上に置いていく。
そして、つい確認するようにドアロックに目をやってから、ブラを外し、指が腰に貼り付いたショーツのところで止まった。
やや前屈みで、ウエストのゴムに指先を引っ掛けたまま……

典子、本当にいいのね。
後悔……してないよね。

念を押すように自分に語り掛けてみる。
今さら逃げ出すことなんて有り得ないのに、私は卑怯な同意を取り付けようとしている。

ほんの一瞬だけ時間が止まり、想定通りって表情で心が折れる。
私は、スルスルと最後の一枚を引き降ろすと、ブラとショーツを一緒にして、積み上げた服の一番下、スカートで包むようにしてそれを隠した。

ただ、シャワーで汗を流すだけなのに……
ただ、きれいなお湯で、身体を清めるだけなのに……

どうしたというのよ、典子?

今から会うのは、昔の恋人……
それも、ふたりっきりの夜のホテルで……
だったら、大人の女性のあなたならわかるでしょ。

さあ、彼の機嫌を損ねないように、早くシャワーを浴びましょ。
でも、男の人が大好きな処は、念入りにね。


ザザー……ザザザー……ザザー……

シャワーノズルから勢いよく噴き出す熱めのお湯を、私は惜しみなく素肌に浴びせていた。
何にも染まらない透明なお湯が、肩から下腹部へと滝のように流れ落ちていく。

右手で、肌を滑るお湯を受けとめては、ふたつのふくらみに満遍なく掛け撫でる。
手のひら全体を使って軽くマッサージするように、下から乳房を持ち上げては、さっと放してみる。

プルンと、まるでお皿に落ちたプリンのように、私のバストは揺れた。
学生時代から、好奇心に満ちた視線に晒されたバストは、今もほとんど垂れ下がることなく、瑞々しく張り詰めている。

「下も綺麗にしないと……」

肩幅にひらいた両足首の間を、バシャバシャと音を立てながら、肌を清め終えたお湯が落ちていた。

私は、意味も無い指示を口にしながら、指を下腹部へと這わせていく。
流れ落ちるお湯になびく陰毛を、頭の髪を洗髪するように指の腹全体を使って、地肌から丁寧に洗い流した。

そのまま、真ん中の指3本を揃えて、割れ目の中へと沈めていく。
腰を落とし気味に、ひざをやや外向きにして、3本の指先がデリケートな肉の襞を……壁を……下手に刺激しないように慎重にこすっていく。
わずかに残る女の匂いを痕跡を、一切否定するように……
男の興味を惹かせないように……
指先の刷毛を動かし続けた。

ふふふっ、私ってバカなのかな?
どうせ今から、典子の身体は男の手によって淫らに汚されるのに……
わざわざ念入りに洗い清めるなんて、自分から行為を期待しているみたいでなんだか恥ずかしいよね。

そのままの身体で、男に好きにされた方が……強引に身体を奪われた方が……
自分の心にも言い訳をせずに済むし、私も傷付かないで済む。

……けど……だけどね……

それでは、ダメなのよね。
私の心にケジメがつかないの。

ね、そうだよね。博幸。

浴槽から出た私は、肌から滴る水滴をバスタオルで拭っていく。
拭いながら、壁に設置された鏡に映る裸身をジッと見つめる。

あなたが、自分の好みだって褒めてくれた、肩に掛るストレートな黒髪。
あなたが昔ファンだったアイドル女優より、もっと綺麗で可愛いよって、褒めてくれた私の目鼻立ち。
そして、あなたが2年と少し愛してくれた、この肢体……

そうよ、私のいやらしい身体……
セックス大好きな身体……
おっぱいも腰付きも、はしたなく男を誘っているようで、自分でも軽蔑したくなるくらい典子の身体、恥ずかしいよ。淫らだよ。

……だから、今晩から典子は変わることにしたの。
私は、この身体を使って博幸の夢を実現させてみせる。
そのためには、5年? ううん10年かかるかもしれない。

でも、私は、あの男に賭けてみることにしたの。
あの男なら、私たちの夢を実現させてくれそうで……

その代わり、博幸。
当分の間、典子のことは忘れて……
私がどんな行為をしていても、知らない顔をして目を閉じて……耳を塞いでいてね。

ごめんなさい。博幸。

なにも身に着けず、バスタオルだけを巻きつけると、ドアノブを回す。
カチッとロックが外れ、私は男が待つ部屋へと、足を踏み入れた。




目次へ  第2話へ






拓也の見果てぬ夢






















(2)


3月 30日 日曜日 午後8時  岡本 典子

                 

自分の人生は、己の腕一本で切り開くもの。
人は利用しても利用されるものではない。
ましてや、お互いの利益のために、協働するなど……

俺は、ふっと顔を緩めると、窓ガラスのはるか眼下に拡がる無数の光の点を眺めていた。

個々の光はそれぞれ独立していても、それが縦につながり横につながり、知らず知らすのうちに、壮大な夜景の一部へと取り込まれていく。

「そして、今夜から俺の協働も始まる……か」

視線をガラス窓から、部屋の中央に配置されたベッドへと移す。

けばけばしいラブホテルのそれではない。
かなりゆったりとした作りのそのベッドは、変な例えだが大柄の男ふたりが一緒に寝ても、まだお釣りがくるほどの大きさだった。

「ふふっ、これなら色々と楽しめそうだ」

俺は、ベッドに上がると仰向けに寝転んだ。
そのまま、高ぶる気持ちを落ち着かせようと目をつぶる。

だが、無駄な行為のようだった。
まぶたの裏にまで、あの女の容姿、仕草その全てが、期待と想像を織り交ぜた映像として映し出されていく。

今夜の俺との行為のために、隣接する浴室で自分の肌を磨く女。
図らずも運命の悪戯に翻弄されながらも、健気に愛する者のために、自ら恥辱に身を晒す女。

久しく感じることのなかった俺の性的本能が、ガウンからはだけた下腹部に、大量の血液を流入させ始める。
男の分身の頭をもたげさせている。

一層のこと、シャワーを頭から浴びながら、女を犯すか?

心の準備に時間など与えさせる必要はない。
愛しい夫の名前を連呼させながら、女に腰を打ち付けるのも、これもまた一興か?

勝手に妄想する本能の暴走に、俺の息子が益々硬く背伸びする。

「ふふ、俺もまだまだガキだな……」

ふっとおかしくなり、興奮にいきり立つ息子をなだめるように、計算高い提案をしてみる。

まあ、待て。これからも長い付き合いになる女だ。
今夜くらいは、ベッドの上で甘い夢に浸らせるのも、悪くはないだろう。

まもなくして腕の中で鳴くことになる女に、過剰なまでの期待を寄せながら、俺は、これまで自分に降りかかった数奇な運命を思い返していた。


今から4年前……

俺はこの街にある国立大学を卒業後、同じくこの街に本社を置く全国有数の金融企業、時田金融グループに入社した。

当初配属されたのは、法人向けの貸出部門。
一応、この会社の出世コースに乗ったといって過言ではない。

そこで、主に出資申し込み法人の財務審査を2年間勤めあげ、同期入社組みよりも1歩も2歩も先んじる昇進を続けていく。
24で主任を、翌年には係長を……
そして、同僚から羨望の眼差しで見られ始めた矢先、大きな落とし穴が待っていた。

『同年4月1日をもって、建設部2課 課長に任ずる』

予想もしない辞令に、俺は愕然とした。
まるで、後頭部をハンマーで殴られたようなショックに、しばらくの間、茫然としていた。

建設部課長、役職の上でこそ昇進ではあるが、事実上の左遷。
俺は、一気に出世コースの階段から転げ落ちていった。
そう、要するにお払い箱ってやつだ。

でも、どうして……?
どう頭をひねっても、思い当たる節はない。

思い悩んだ俺は、同期で人事部に配属されている友人から、それとはなしに真相を聞き出すことに成功した。
だが、聞いて慄然する。

まさか、俺の人事に篠塚副社長が絡んでいたとは……?!

篠塚唯郎(しのづか ただお)、時田金融グループ副社長。
独裁的且つカリスマ経営者、時田謙一の足下にも及ばないが、肩書通り、社内ナンバー2の実権を持つ男。
それに、これはあくまで噂だが、時田謙一のワンマン経営を危惧する一部の反時田勢力の、事実情のリーダーとの話もある。

どうやら俺は、気付かないうちに、とんでもない者の尻尾を踏んでいたようだ。
だが、そうして考えてみると辻褄の合う部分もある。

これもまた噂であるが、長らく空席が続いていた社長秘書課の課長職のポストに、俺が就くという話がもっぱらだった。
もしそれが噂通りなら、出世コースを突き進む俺を排除することで、延いては時田社長の力をも削ごうという魂胆なのだろう。

まあ、俺にとっては、とんだとばっちりでいい迷惑なのだが……

この事実を知った俺は、しばらくの間、酒に溺れていた。
定時終業と共に酒場に繰り出しては、浴びるように酒を飲む日々。
情けないことだが、俺は現実逃避していた。

そして、そんな自堕落な行状の末、偶然巡り合ったのが、今、俺のためにシャワーを浴びている女というわけだ。
まあ、そんな彼女も、俺並の……いや、俺以上の辛酸な人生を送っているようだが……


そろそろ女が、出てくる頃だ。

俺は、ベッドの上から扉がひらくのを待つことにした。
禁断の情事に、頬を羞恥色に染める女に期待して……



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青春の思い出は苦くて切ない?























(3)


3月 30日 日曜日 午後8時30分  岡本 典子



「随分と待たせるんだな。
元人妻の君なら、男の性欲もよぉーく理解しているんだろう
なあ、我が高校始まって以来の美少女学生と噂された、坂上典子さん。いや、今は岡本典子(おかもと 典子)だったな」

素裸の上からガウンを1枚だけ羽織った男性が、ダブルベッドに腰かけたまま手招きをしている。

不満そうで嫌みな口振りの割りには、表情にそれは見られない。
それどころか、欲しかった玩具を手に入れた子供のように、丸い目を輝かせている。

本当に私の身体が待ち遠しかったのか?
それとも、羞恥心に揺れる女心を鑑賞して楽しんでいるのか?

その黒い瞳は、まるで透明なフィルターに包まれているようで、そんな彼の心底を察することは、時間が経った今でもやっぱり無理だった。
そう、あの頃と同じ……

「河添先輩……ううん、拓也先輩。
その野生の獣のように爛々と輝かせた瞳。昔と少しも変わらないのね。
あなたは、欲しいモノ、手に入れたいモノがあるとき、必ずその目をして、どんなことをしてでも手に入れようとした。
強引にでも手に入れた。
学校での地位も名声も……私の初恋も……私の初めてのモノも……」

私は、巻き付けたバスタオルの折り返し部分を握り締めたまま、男が待ち構えるベッドへと歩いて行った。

河添拓也(かわぞえ たくや)……
私の高校時代の先輩で、大手金融グループ会社に勤める会社員。
年令は、私よりひとつ年上の26歳。たぶん独身。

日に焼けた浅黒い肌に、無駄な贅肉が一切見当たらない筋肉質な体型。
そう、あの頃と全然変わっていないどころか、ひと回り身体が大きくなった感じがする。
そして、顔付きも、当時の甘い少年の面影は消え去り、社会の荒波にもまれたのか、精悍な大人の男に進化していた。

高校生の頃、河添はサッカー部のエースストライカーで、私はその部のマネージャーをしていた。
勉強ができてスポーツ万能で、その上、ルックスも良くて、常にクラスどころか同学年、後輩の私たち女子生徒からも憧れの存在。

対して私は、河添が言うように多少美人だったかもしれないけど、勉強も平均点なら、スポーツもまあまあ。
要するに、どこにでもいる普通の女の子だった。

そんな私のどこを気に入ったのか、河添はある日突然、恋の告白をすると強引に纏わりついてきた。
当時の私は、他の女子生徒のように彼に興味があったわけではないし、そもそも、性に対して少々奥手だったのか、異性への興味もあまり無いって感じで、正直最初の内は彼の行動を疎ましく思っていた。

それに私は、河添が時折見え隠れさせる野獣のような輝く目と、他と妥協することなく突き進む姿が正直言って好きにはなれなかった。
でも、結局のところ私は、彼の行動に戸惑いを覚えながらも、付き合っていた。
そして、彼が高校を卒業する直前には、女の子にとって大切な思い出の、ヴァージンさえ捧げていた。

その後、高校を卒業し、家庭の事情で就職した私と、国立大学へと進学した河添との関係は、急速に冷え込み壊れていった。
というより、河添からの連絡が一方的に途絶えて、私は捨てられたことを意識した。

なぜ、そんな好きでもない人と付き合っていたの? 
なぜ、そんな好きでもない人に、女の子の証まであげてしまったの?

それからしばらくの間、私は答えのない疑問に悩まされたあげく、おぼろげな答えを探しだしていた。

自分でさえ気付かなかった、淡い初恋。
それに、彼の危険な野獣の目が、いつか暴走し破滅するのを防ごうとする母性愛? ……だったのかな? って……

「さあ、典子。久々の再開なんだ。
そんな野暮なバスタオルなんか脱ぎ捨てて、高校時代とは違う成熟した女の身体を見せてくれ。
その窓際に立ってな」

「……ああ……は、はい」

私はフラフラと、足下から天井近くまでガラス張りの大きな窓へと近づいた。

こんな心理状態で……
こんなに恥辱と羞恥に追い詰められた状態で……

それでも、地上40階のホテルの一室から見る夜景は、宝石箱を散らかしたようにキラキラと輝き美しかった。

私はそんな夜の景色に背中を向けると、ベッドの上でひざを土台にして頬づえを突いている河添に視線を合わせた。

典子、しっかりね。

ゆっくりと息を吐きながら、バスタオルを握り締めていた指を引き離す。
折り返し部分を解き、着物の前をはだけるように、何も身に着けていない肌を露わにしていく。

途中、何度も腕が止まりそうになる。
ひざが震えて、しゃがみ込みそうになる。

「ああ……」って、噛み締めた前歯から悲鳴が漏れて、溜息にごまかした。
視線を逸らせば典子の負けよって、必死で自分を励まし続けた。

そして、マントのように背中だけを隠すバスタオルを静かに床に落とすと、私は、抵抗する両手の指を無理矢理揃えさせて腰の横に添えた。



目次へ  第4話へ




尻文字






















(4)


3月 30日 日曜日 午後8時40分  岡本 典子



「あれから8年か……いい身体に仕上がったな。
俺が女にしてやった頃の典子は、まだ熟れる前の林檎のような肢体だったが、男を知った女の熟れ具合は、今が食べ頃のようだな。
風船のように張り詰めた乳房にしろ、むっちりとした太ももにしろ……
おっと、あの恥丘にひとつまみしかなかった陰毛が、今では立派な逆三角形か……ははははっ……」

「うっぅぅっ……! もう……仰らないでください……恥ずかしい……」

河添の恥辱を煽る指摘に、心のバランスが大きく傾いてしまう。
長らく味わうことのなかった激しい羞恥心に、顔が焼けるくらいに火照り、私は逃れるように窓ガラスに背中を押し付けていた。
ヒンヤリとするガラスの冷たさに、むき出しのお尻がブルッて震える。
心の底まで、ブルブルと震えだしている。

「おいおい、処女だった頃の典子じゃあるまいし、いつまで怯えているんだ。
さあ、俺に気に入られたければ、もっと熟した自分をアピールしてみろ。
そこの椅子の背もたれにでも、しなだれて、いやらしくケツでも振ってみるんだな」

河添が、窓際で向かい合う2脚の木製の椅子を指差した。
そして、私の淫らな行為を鑑賞するつもりか、ベッドから立ち上がると、左側の椅子に足を投げ出すようにして腰かける。
ガウンの裾がまくれ、ひらいた両足の間から、浅黒い顔に負けないくらい、黒くて筋張った肉の棒が準備万端という姿で、そそり立っている。

「私……私……」

半年ぶりに目にする男のモノ……
AV女優が行うような淫らなプレイ……

夫でもない男の前で裸になるだけでも死ぬほど辛いのに、その上、男を誘うようにお尻を触れだなんて……

こんなのひどい……ひどすぎる……!
典子には……

「どうした? やれないのか? やりたくないのか?
この程度のことでギブアップなら、俺はお前の面倒を見るなんてまっぴらごめんだ。
さっさと、おうちに帰るんだな」

河添は突き放すようにしゃべると、どこまでも拡がる街の明かりを楽しむように、窓の外へと目を向けた。
目の前に突っ立っている裸体には、興味を失ったかのように……

博幸……私……

『僕の夢はね、みんなの笑顔をつくる商売をしてみたいんだ。
愛想笑いじゃない。みんなが心から笑える仕事をしたいんだ。
……僕たちには、厳しくて辛い道程だけど、協力してくれるかい? 典子……」

ふたり手を繋いで、高台の公園から夕暮れの街を眺めながらつぶやいた博幸の言葉。
あなたの……あなたらしいプロポーズ……

こんな高い所から見下ろすんじゃなくて、街の明かりをもっと身近で……
そのために……そのためなら……

「……わかりました」

私は、ガラスに映り込む河添の目を見てうなづくと、空いているもう一対の椅子へと向かった。

意識して踏み出すつま先を内側に、過剰なくらい肩を右左と揺らして……
お尻を大きく振って、いやらしく背中のラインまでくねらせて……

そう。今夜は、私の……岡本典子の覚悟が……私たちの夢が試される初めての日。
今この瞬間から、典子は蔑まれた、はしたない女になるの。
男を悦ばせ、手放したくなくなる女にならないといけないの。

私は、椅子の背もたれに両手を回すと、座席部分に乳房を押し付けて、背筋を反らすように伸ばした。
どうかしたら折れ曲がりそうになるひざ裏を……
日にあたることのない太ももの裏側を……
すべて男の目に晒しながら、お尻を高々と掲げた。
身体中に満ちてくる羞恥心を堪えて突き出した。

そのまま、ゆっくりとスローモーションのようにお尻を左右に動かした。
河添を満足させるために振った。

お尻を右に傾けて左にも傾けて……
きゅっと割れ目の筋肉を引き締めて……
河添の言う熟れた女を意識して……
熟した典子の肢体を意識して……

「もっと足をひらけ!」
「熟れた典子のおま○こを晒すんだ!」
「ケツ文字で、『の』の字でも描いてみろ!」
「いいぞ……今度は、『めすいぬ のりこ』だ!
ははははっ……ははははっ……」

背中越しの男から次々と残酷な指示が飛ぶ。
私は、抵抗することなく、反抗することなく、躊躇することなく従っていく。

窓に映り込む典子を見る。
前歯を少し覗かせて、くちびるを半開きにして……
それは、今まで意識したことのない、男をねだる女の顔。

そして、その表情に自分を納得させて両足をひらいた。
夫と営む行為のための器官を、自ら露わにする。

頭のなかで、忘れかけた平仮名の『の』を思い浮かべる。
ひざを屈伸して準備運動のように腰を大きく回転させる。
とめ・はねを意識して、お尻で書道する。

次の文字は長いのに、男が下卑た掛け声を放った。
下卑た声で笑い掛けた。

そんなことをされてたら困るのに……
ほら……バカな典子のおつむが、平仮名全部を忘れそうになってる。

えーっと、確か……『めすいぬ のりこ』……だったわね。

でも、のりこって誰だろう? わからない……?
典子のおつむって、バカだから、これで助かったのかな?

無心になって文字を描いていった。
私から見ることのできない空間に、お尻という筆をつかって、まずは『めすいぬ』って……

そうしたら、なぜなの?
男の目に晒された、典子の大切な処が、急に熱く火照ってきて、私は冷ますように続きの単語を描いていく。
さっきよりも、もっと腰を大きく振って、大胆なお尻の筆の書道で……

『のりこ』って……



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